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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第27話 風の渡る丘、二つの影

カイとハルは、街の外れに広がる丘へと向かう。

そこは“風のはじまり”と呼ばれる場所。

二つの影が並ぶことで、旅は新たな季節を迎える。

 始まりの街を抜けると、風が少し強くなった。

 空は雲一つなく、高く澄み渡っている。

 通りには季節の花が咲き、家々の窓辺には色とりどりの布が揺れていた。


 「今日は、いつもより風が明るいね」

 ハルが言うと、カイはうなずいた。

 「うん。街全体が呼吸してるみたいだ」


 二人は白い石畳の小道を並んで歩いた。

 影が伸びて、重なって、また離れる。

 そのたびに、カイの胸の奥で何かが静かに響く。

 ――ユウと歩いた日々。

 でも今は、その感傷が痛みではなく、やさしい光として残っている。


 丘に近づくと、風の音がはっきりと聞こえてきた。

 草が波のように揺れ、陽の光がその上で跳ねる。

 丘の頂上には小さな石塔があり、上には風見鶏が輝いていた。


 「ここが“風のはじまり”か……」

 カイは息を呑んだ。

 どこかで見た景色。

 だが、それは過去の記憶ではなく、未来の予感として胸に広がった。


 ハルは駆け足で丘を登り、石塔に触れた。

 その瞬間、風が大きくうねり、白い花びらを舞い上げた。

 まるで、丘そのものが二人を歓迎しているようだった。


 「カイさん、ちょっとこっち」

 ハルは草の中に埋もれていた何かを拾い上げた。


 それは、古びた切符だった。

 紙が薄くなっているが、文字は残っている。

 “時刻なき鉄道 途中下車券”

 裏には、見覚えのある筆跡があった。


 ――《また会おう》


 カイは指先を震わせた。

 「これは……ユウの……」


 ハルは静かに頷いた。

 「このまえ、空から手紙が降ってきたでしょ?

  あれだけじゃなかったみたいなんです。

  丘の風が、“落とし物”を拾ってくれたんですよ」


 風がさらに吹き、切符がふわりと空に揺れた。

 カイは小さく笑った。

 「……やっぱり、見てるんだな。

  相変わらず、黙って驚かせるのが好きなんだから」


 ハルは不思議そうにカイの横顔を見つめた。

 「カイさんの友達って、やっぱりすごい人なんですね」

 「うん。すごくて、無茶苦茶で、優しくて……

  そして、僕の“時刻”をくれた人だ」


 二人は丘の頂上に並んで座った。

 目の前には、街全体が見渡せる。

 屋根の間を風が走り、川が光り、鐘塔が陽に照らされていた。


 「カイさんは、これからどうするんですか?」

 ハルの問いに、カイは静かに息を吸い込んだ。


 「わからない。でも、たぶん――」

 「たぶん?」

 「“歩く”んだと思う。

  列車に乗るんじゃなくて、自分の足で」


 ハルは目を輝かせた。

 「僕も一緒に歩いていいですか?」

 「もちろん。

  でも、辛いときは無理に歩かなくていい。

  休む時間も“時刻”なんだ」


 ハルはうれしそうに笑った。

 その笑顔の奥に、ユウの影が重なる。

 けれど、それは過去の亡霊ではなく――継がれた光だった。


 風が二人の髪を揺らした。

 その風の中に、確かに誰かの声が聞こえた。

 『行けよ。……二人で』


 カイは空に向かって微笑んだ。

 ユウはもうそこにいない。

 けれど、いなくなったのではなく――向こう側で道を照らしている。


 「さあ、行こう」

 カイが立ち上がると、ハルも立ち上がった。


 二つの影が並んで、風の中へ歩き出した。

 時刻を持つ者として。

 そして、風の旅路を継ぐ者として。


 丘の上で、風見鶏がゆっくりとまわった。

 それは、長い旅の“第二章”のはじまりを知らせる鐘のようだった。

風の丘で見つけた古い切符は、過去から届いた光だった。

カイとハルはその光を胸に、二人の旅路を歩き始める――

“時刻なき鉄道”は、形を変えて再び動き出す。

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