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夜の川原に降りてくる列車  作者: たむ


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第26話 風鈴の坂道、ひびく約束

街の外れに続く坂道に、風鈴が無数に吊るされていた。

カイとハルは、風が鳴らす音の中で、互いの“旅の理由”に触れる。

 始まりの街を出てしばらく歩くと、丘に続くゆるやかな坂道が現れた。

 その両脇には、無数の風鈴が吊るされている。

 ガラス、金属、陶器……ひとつひとつ形も音色も異なる風鈴が、風に揺れては透明な音を響かせていた。


 カイとハルは、並んでその坂を登っていた。

 午後の陽が傾き始め、風鈴が淡い光を受けてきらめいている。


 「すごいね……」

 ハルは足を止め、目を輝かせた。

 「こんなにいっぱいの風鈴、初めて見たよ」


 カイは微笑んだ。

 「この街に来た人たちが、それぞれ吊るしていったんだと思う。

  大切な思い出とか、誰かへの祈りを込めて」


 風が吹くたびに、風鈴たちは一斉に歌い出す。

 その音は、不思議と胸の奥の傷をやさしく撫でるようだった。


 「ねえ、カイさん」

 ハルが少し真剣な声で言った。

 「僕……まだ自分が何を探してるのか、全部は分からないんだ」


 カイは足を止め、ハルの顔を見た。

 少年の瞳は、未熟な不安と、それでも前に進もうとする光で揺れていた。

 ――あの日の自分を見るようだった。


 「急がなくていいよ」

 カイは言った。

 「“今”を生きていれば、探しているもののほうからやってくる。

  僕も、そうだったから」


 ハルは小さく頷いた。

 風鈴の音が、二人の間をゆっくり通り抜ける。


 「カイさんは……ユウさんのこと、まだ悲しい?」

 不意に問われ、カイは息をのんだ。

 痛みではなく、胸の奥が温かくなるような驚きだった。


 「悲しさは消えないよ。でも、悲しいだけじゃない」

 カイは空を見上げた。

 「僕がどこにいても、風が吹けば彼はそこにいる気がする。

  だからね……“忘れないこと”は、もう怖くないんだ」


 ハルはゆっくりと笑った。

 「そっか……いいな。

  僕も、そんなふうに誰かを想えたらいいな」


 「きっとできるよ」

 カイは言った。

 「君は手紙を受け取ったんだから。

  それはもう、君の旅も誰かの旅につながってるってことだ」


 ハルの頬が赤く染まった。

 風鈴がまた鳴る。

 まるで拍手のように。


 坂を登り切ると、小さな社が建っていた。

 古びた鳥居の上にも、透明な風鈴がひとつ吊るされている。

 風が吹くたびに、澄んだ一音を響かせるその風鈴は、

 他のどれよりも静かで、強い音だった。


 カイは鳥居に手を触れた。

 「ここは……“約束の坂”って呼ばれてるらしい」

 「約束?」

 「うん。この坂を登った人は、それぞれひとつだけ願いを結ぶんだって」


 ハルは風鈴を見上げた。

 「願い……?」


 カイは目を閉じ、小さく息を吸った。

 そして、風鈴に触れぬようそっと両手を合わせた。


 ――ユウ、僕はもう大丈夫だ。

  だから、次は“誰かを照らせる人”になれるように。

  僕の時刻が、また誰かの朝を連れていけるように。


 風が吹き、風鈴が澄んだ音色を響かせた。

 その音が胸に落ちた瞬間、何かが確かに“結ばれた”気がした。


 隣を見ると、ハルも目を閉じていた。

 風に揺れる髪が光を受け、少年の横顔が新しい旅立ちのように輝いていた。


 やがて目を開いたハルは、照れたように笑った。

 「内緒だよ。何を願ったかは」

 「分かった。願いは自分のものだからね」


 二人は坂を下り始めた。

 夕暮れが街を薄紅色に染め、風鈴の音が背中を押す。


 「カイさん」

 「ん?」

 「これからもし……また迷ったり、怖くなったりしたら……」

 ハルは少し声を震わせて続けた。

 「そのときは、一緒に歩いてくれる?」


 カイは優しく笑った。

 「もちろん。今は二人で旅をしてるんだから」


 ハルの表情が、花が咲いたように明るくなった。


 そして二人の影が並び、夕陽の方向へ伸びていく。

 風鈴の音が、まるで祝福するように夜風に揺れていた。

風鈴の坂で結んだ願いは、二人の旅を静かに繋いだ。

カイは過去を越え、ハルは未来を見つめる。

二つの影は重なり、やがて光の道へと続いていく。

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