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02. スラム地区と法外地区



02.

▽本編81話『退屈しのぎにちょうど良い』とリンク



 趣味部屋に入ると、常に室温と湿度を一定に保つ為の機械音が低く唸って聞こえる。中央に黒い作業机、左と正面の壁にはガラスケース。その中には、コレクションしている銃が並んでいる。

「……」

 右の壁には手入れをする為の道具やホルスターが掛けられていて、作業机の下に収納してあるキャビネットには弾丸(バレット)が。そう、これらはただ飾る為に集めたわけじゃない。実際に撃つためのものだ。

 残念ながら今の俺の体が耐えられる反動のものとなれば選択肢は狭まるが、ただ眺めるだけなど、つまらんにもほどがある。せっかくの人生……体感しなければ、ホンモノじゃない。

「……ふ」

 これからはデジタルの時代だと誰もが言う。恐らく、読書も会話も、音楽を楽しむことも、どんどん個人的な趣味へと変わっていくだろう。それを機会損失だと思うことは無い。しかし、俺は"ここ"へ来た。


 家の中で得られる"情報"を記録し尽くしたと判断した俺は、両親に家督は継げないと宣言し、養子を取ってもらった。その義理の兄共が従順な働き者であると判断した俺は「父母の会社を少しでも傾けたら家を追い出す」とだけ(ことづ)けて、7歳の時に自立した。

 ひとまず世界を見たもののピンとくる場所が見つからず帰還し、たまたま足を止めたのがここ……この国の法がギリギリ働くこのスラム地区だった。


 ここは良い。何年も前に打ち捨てられたまま整備のされていない道路はヒビ割れていて、かつての繁栄を象徴する古びたビルには低俗ならくがきがあり、日々その姿を変える。それらはすっかり見飽きた高尚な芸術品の数々よりも、幾分か俺の目を楽しませてくれる。

 昼間は人の気配がなく、非常に静かだ。夜になれば歓楽街にネオンが輝き、あちこちから銃声や争う声も響いてくるが、俺は防音設備を整えたこの部屋で快適に眠っているので関係ない。

 そしてその歓楽街の背後には金属とブロック塀で出来た崩れかけのゲートが伸び……その向こうに"法外地区(ゲートの外)"と呼ばれる無法地帯が広がっている。そこには不法建築を重ねたバラック群が積み上がり、砂埃にまみれて、ボロを着た人間共が息を潜めて暮らしていた。


 俺の目的は"そこ"にある。あのゲートの外は、犯罪の温床だ。不法移民、逃亡犯、薬物中毒者……その掃き溜めなのだ。つまり、指名手配犯という"生きた的"を相手に、自慢のコレクションを振り翳せる最高の庭というわけだった。

「兄さーん! おでかけできるよぉ!」

「ああ、すぐ行く」

 騒がしい声にハッとする。手に取って軽く磨いていた小経口のハンドガン、コルトM1908を腰に着けたホルスターに差し込んだ。



 ***



 今日の目的は情報収集だ。俺はリディアの肩に乗り、スラム街を移動していた。街をウロつくストリートキッズ共に金や物資を渡せば、紛れ込んだ指名手配犯の隠れ場所や、場合によれば"追い立て"の協力にも応じてくれる。俺たちは共存関係なのだった。

「そこを曲がれ」

「はあい」

 この女は本当に使い勝手が良い。先月、俺が下手を打って獲物の反撃に遭いかけたところを救われた。いざとなれば切り抜ける方法は用意してあったが、無傷で済んだのはこいつのおかげかもしれない。

 とにかく、その時にこの俊敏性と怪力に目をつけたというわけだ。ちなみにその時に話を聞いてみて分かったことだが、俺たちは遠い親戚でもあった。世間は狭いな。

「……お前の両親のことは俺も知っている」

「え! なあに?」

「フォーブス家……不慮の事故だったな」

 財政界で名の知れた夫婦の死……あらゆる書物を読み切り、手を出した低俗なタブロイド誌で目にしていた。俺が生まれるより1年前の出来事だ。その一人娘の行く末についても、メディアは面白おかしく追いかけていた。

「施設に引き取られて追い出されたと話していたな。 俺はお前が父方の親族に引き取られたと認識していたが」

「私?」

「ああ。 施設に入る前、新しい家族がいただろう」

 慎ましく暮らせば一生苦労しない程度の遺産もあったはずだ。

「わかんない、えへっ、私なにももってないよ!」

「頭が悪いな」

 全て奪い取られたか。しかしにこにことご機嫌そうなことで、なによりだ。


 夕暮れ前の路地裏……最近、都会の方で起きた通り魔的な強盗事件の犯人らしき男がこの街にやってきたと聞いた。情報を聞いている間、リディアは近くで退屈そうにしている。

「歓楽街の方向か」

「いや……結局、ゲートの向こうに行ったみたいだぜ」

「もう少し情報がほしい」

「それがさ、追うにも"シュート"がウロついてるエリアで……」

 その名前に片眉を持ち上げた。謎に包まれた"若き殺人鬼シュート"……よくも俺の趣味の邪魔をしてくれる。

「……ん」

 そんなやりとりをしていると、ふと視界の端に一人の男が見えた。クレイグ、と呼ばれている捨て犬だ。奴のことは知っている。こんな街で、目についた人間を手助けして周るという、偽善者。

 どうせ手を貸したところで、2,3日もすれば姿を消していくというのに。奴は一時凌ぎに過ぎない偽善行為により、自己を肯定しようとする、浅はかな人間。

 ――などと考えていたら、目が合ってしまった。

「おい、はした金で身を危険に晒すのはよせよ」

「うわっ、クレイグ……大丈夫だって、はは、何もしねえよ」

「……」

 はした金とは、言ってくれる。奴は奴で、俺が人を金で動かすことを嫌悪しているようだ。俺はリディアに「肩に乗せろ」と合図をした。

「不愉快だ。 帰るぞ」

「はあい! ばいばい、またね!」



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