新たな試練
黒月の力が消えた後、しばらくの間、ロイたちはただ静かに立ち尽くしていた。闇のような冷気は完全に消え去り、周囲の空気はようやく落ち着きを取り戻す。しかし、その静寂は、ただの終息ではなく、新たな始まりを予感させるものだった。
「終わったんだな…」
ロイは肩で息をしながら呟く。その目はまだ鋭く、完全に戦いが終わったわけではないという直感を感じ取っていた。
エファトはその場に立ち、何も言わずに周囲を見回している。その顔に浮かぶ微かな不安を、ロイは見逃さなかった。
「どうしたんだ、エファト?」
ロイが尋ねると、エファトは無言で頷いた。
「まだ、何かが残っている。気をつけろ、ロイ」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、突然、地面が震え始めた。最初は小さな揺れだったが、次第にその振動は大きくなり、空気がひしひしと圧迫されていく。
「こ…これは?」
リリィが顔をしかめながら言った。その声には不安が滲み出ている。
「何かが、まだ終わっていない…」
カイルも剣を構え、周囲を警戒しながら言った。その不安が確信に変わったとき、地面から無数の黒い触手が現れ、ロイたちに迫る。
「またかよ…!」
ロイは呆れるように言いながら、呪装適応を強化する。これまでの戦闘で得た力を使い、黒い触手を次々と斬り伏せていく。しかし、次から次へと触手は生えてきて、ロイたちを取り囲んでいく。
「うおおおお!」
エファトがその剣を一閃し、触手を切り裂く。しかし、彼の剣さえも、完全に触手の勢いを止めることはできない。
「このままでは…」
リリィが呆然とつぶやいたその時、突然、空が暗くなり、雷鳴が轟いた。空の裂け目から、一人の人影が降り立つ。
「だれだ…?」
ロイはその人物を見上げる。降り立った人物は、圧倒的な威圧感を放ちながらも、どこか懐かしさを感じさせる存在だった。
その人物が口を開いた。
「まだ終わっていない、ロイ」
その言葉に、ロイは驚き、思わず呆然とその人物を見つめた。
「お前は…エファト?」
エファトの顔に浮かんだのは、驚愕の表情だった。
「な…なんだ…これは?」
降り立った人物は、まさにエファトそのものでありながら、どこか異質な存在だった。目の色は異なり、彼の体には不思議なエネルギーが宿っているような気配が漂っていた。
「エファト…お前、どうしてここに?」
ロイが一歩近づきながら問いかける。しかし、そのエファトは無言で、ただ黙ってロイたちを見つめている。
その異なるエネルギーに圧倒され、ロイたちは一歩引き気味に後退した。
「これは…どういうことだ?」
エファトがその時、ゆっくりと口を開いた。
「私は、もはやエファトではない」
その言葉に、ロイたちは混乱した。
「どういう意味だ?」
「私の中には、過去の私の魂と、黒月の力が融合した。そう、私は今、黒月の力を宿している。」
ロイはその言葉を聞いて、目を見開いた。
「まさか…お前が、黒月の力を?」
「その通りだ。だが、私が宿したのは、あの黒月の力ではない。あれはただの一部だ。」
その言葉に、ロイたちは全員が動揺した。
「どうしてだ!エファト、お前がそんなことをする理由がわからない!」
エファトは少しだけ苦しそうに顔を歪め、そして再び言った。
「私がやったことは、黒月に操られていただけだ。しかし、今なら、私の意志でその力を解放できる。」
その言葉が示す意味は、ロイたちには重くのしかかるものだった。エファトは黒月の力を封じるために戦い、そしてその力が完全に封じられたわけではなかったのだ。
「お前が、それをどうにかできるというのか?」
ロイが問いかけると、エファトは一度深呼吸をし、力強く頷いた。
「私にはその力を解放する方法がある。ただ、覚悟を決めて戦う必要がある。」
その言葉に、ロイたちは少しだけ心を落ち着けた。そして、エファトがその手を差し出す。
「お前たち、共に来てくれ。私一人では、この力を完全に封じることはできない。」
その時、ロイは深い覚悟を胸に、エファトの手を取る決意を固めた。
「一緒に、終わらせよう。今度こそ…完全に!」




