雷鎖のエルネストと、少女の覚醒
《黒の楔》拠点・地下中枢。
ロイが《白銀のアグナス》を退けた翌日。
祝福圧の残滓がまだ空間に漂うなか、リリィはただ一人、瞑想のように座っていた。
その手には、小さな呪装の欠片。
兄が戦いで放った「黒環反転」の余波に反応し、自然と彼女の中で何かが“共鳴”していた。
《因子適合率 上昇中──30%…40%…》
一方、拠点外――。
雷鳴とともに、一陣の稲光が空間を裂いた。
轟音、地響き、そして焦げた空気。
現れたのは、一人の長身の男。
鎖を巻きつけた黒鎧に、雷の紋章を浮かべる鋭い瞳。
「……さすがに、“白銀の不死騎士”が倒されるとはな」
その名は──
七聖鎧団・第二鎧《雷鎖のエルネスト》。
祝福スキル《雷神の系譜》を持ち、“速度と束縛”を自在に操る処刑人。
「命令は変わらない。“クロードの因子”を確保。“呪装適応者”は……殺していい」
拠点警報が鳴る。
《高位転移反応確認》
《第二鎧・エルネスト、接近》
《警戒レベル:最大》
リゼが舌打ちした。
「また来たわよ、祝福の猟犬が……!」
だが、ロイは落ち着いていた。
「前よりも早い。俺がアグナスを倒したことで、“優先度”が上がったな。
次は――速度系か」
リゼがリリィの方をちらりと見る。
「ロイ、今回は少し時間稼ぎして。リリィの“中にあるもの”が動き出してる」
ロイの目がわずかに揺れた。
「……リリィに、“適応”が?」
「断定はできない。でも、“何か”が目覚めかけてるのは確か」
そのとき、雷の鎖が拠点天井を貫いた。
爆音とともに、巨大な鉄柱がなぎ倒される。
「“時間稼ぎ”か? 無駄なことを……!」
エルネストの声が響いた瞬間、鎖が生き物のように伸びる。
《祝福装備:雷鎖術式〈拘束雷獄陣〉》
《範囲内の移動を禁止。電撃による感覚制御開始》
「――っ、動きが……重い!?」
リゼが叫ぶ。
祝福の加護が、領域内の神経信号を強制遮断していた。
だがその鎖がロイに届く寸前――
《呪装適応 発動:対領域反転式・環断》
《祝福領域、逆流開始》
雷の鎖が逆に巻き返され、エルネストの腕に絡みつく。
「なにっ……!?」
「……鎖は“繋がってる”限り、呪いが逆流するってわからなかったか?」
ロイの拳が、鎖を通じて“祝福の回路”へと届く。
「“祝福”は便利だが、万能じゃない。“神の力”を使ってる時点で、お前らは全部“同じ系統”に乗ってる」
エルネストの身体が痙攣する。
「くっ……! お前の呪い、どこまで応用できるんだよッ!」
「応用じゃない。これは――“適応”だ」
そのとき、背後で光が走る。
リリィが立ち上がっていた。
目には黒い紋章が浮かび、髪がゆらりと宙を舞っていた。
「お兄ちゃん……もう、隠さなくていいよね。私の中にも、“同じもの”あるって、知ってたんだ……」
《因子覚醒:呪装適応・第二適合者》
《適合率 65%──臨界突破》
《少女型呪装:祈呪結界展開》
空間がひび割れ、祝福の領域を覆う“反転結界”が形成される。
雷の鎖が次々と、消失していく。
「……リリィ……お前……」
「わたしも、呪われてる。だから――お兄ちゃんと一緒に戦うって、ずっと決めてた」
雷鎖のエルネストは後退しようとした。
だが、その足元を、リリィの結界が拘束する。
「もう遅いよ」
ロイとリリィ。兄妹の双呪装が共鳴し、周囲の空間が“神にとっての毒”へと変わる。
エルネストは叫んだ。
「貴様ら……そんな力、神が許すわけ……!」
「だったら――神ごと呪い殺してやるよ」
《連携呪詛:双刻の反律》
《発動》
空間が反転し、雷鎖の騎士が黒の光に飲まれた――。
「呪われた姫君と、偽りの聖女」
リリィの覚醒により、《黒の楔》の勢力が一気に拡大。
だがその裏で、王国の“聖女”が異常な動きを見せ始める。
「祝福」とは何か? 「神」とは誰なのか?
物語は、宗教と政治の闇に踏み込んでいく――。




