黒月の使徒と呪剣の誓い
黒月が、空に浮かび上がった。
それは、ただの月ではなかった。
赤黒く、血のように濁った色をしていて、その不気味な輝きが大地を照らすと、まるですべての生命を圧し潰すかのような重圧が漂った。
「……これは、ただの月じゃない」
エファトが静かに呟く。
「この黒月は、かつて神代に使われた、最終兵器。世界を滅ぼす力を持った、“呪いそのもの”だ」
ロイは息を呑んだ。
その意味が、すぐに理解できた。
「つまり……それが、俺たちに向かってきてるってことか?」
「その通り。黒月に引き寄せられたものが、いま、地上に降り立つ」
エファトは、剣を構えた。
「奴らは、“黒月の使徒”――呪いの化身だ。相手にするのは、非常に危険だ」
その言葉が終わるや否や、空から突如、異形の者たちが降り立った。
その姿は、まるで死者のように痩せ細り、目はただの暗闇と化していた。
「……やっぱり、来たか」
ロイは呪装を強化し、身構える。
「くそ……気配が、どんどん濃くなる……!」
使徒たちは、ゆっくりと歩を進めながら、周囲の空気を引き裂くような気配を放っている。
その中には、ひときわ大きな存在がいる。それこそ、黒月を宿す者、使徒の王。
「さあ、来い」
ロイが叫んだ。
呪装が剣を握りしめ、全身に黒き波動を纏う。
「その呪い――俺の力で、世界を変える!」
その瞬間、使徒たちは一斉に動き出した。
まるで無数の触手のように、黒い霧がロイに迫り来る。
「くっ……!」
ロイはその霧を蹴散らしながら、全力で突進する。
「《呪装・破魔断》ッ!」
ロイの一撃が、使徒たちを切り裂いた。
だが、その一刀では到底倒しきれない。使徒たちの肉体は、瞬時に再生し、傷口が癒えていく。
「再生能力……!? これじゃ、倒してもきりがない!」
エファトは冷静に状況を分析しながら、さらに前に出た。
「だから、こちらの攻撃も一段階強化しないといけない。ロイ、俺の背後を守れ!」
エファトは剣を一閃し、さらに強力な“光”を放出。
その一撃で、使徒の王を貫こうとしたが、使徒の王はその光を避けるように身をかわし、さらに怒涛の攻撃を仕掛けてきた。
「この力、ただの呪いとは訳が違う!」
ロイは叫びながら、呪装を最大限に活性化させ、力を高める。
「《呪装・闇滅斬》ッ!!」
彼の刀が、空間そのものを切り裂く。
その刃は、呪いの力が満ちると同時に、使徒の王の攻撃を捉えた。
――だが、その瞬間。
使徒の王が裂けた大地から、巨大な暗黒の槍を構えて迫ってきた。
「――!? なんだ、あれ……!」
ロイは呆然とし、その姿を見つめる。
それは、ただの槍ではなかった。
その槍には、無数の暗黒の裂け目が広がり、無限の呪いを宿しているようだった。
「――――いけない!!」
その時、エファトの声が響いた。
「ロイ、後ろだ!!」
ロイは瞬時に反応して後ろを見ると、そこには――
使徒の王が放った槍が、死角から迫ってきていた。
「くっ――!!」
間に合わない。
その瞬間、ロイの目の前にエファトが飛び込んできた。
「エファト!?」
その瞬間、エファトが手にした剣を振りかざし、槍を受け止めた。
だが、エファトの身体が一瞬、震えた。
「エファト!」
「……平気だ。少し、痛いだけだ」
エファトの剣は、使徒の槍を弾き飛ばし、力を抜けさせる。
「だが、これで終わらせなければならない。ロイ、お前が最後の一撃を入れるんだ」
「……わかった」
ロイは、覚悟を決めた。
自らの力を、全て放出する覚悟。
もう一度、呪いの力で――世界を変える。
「――行くぞ!」
ロイの叫びとともに、呪装の力が暴走を始めた。
その力は、まるで破壊の風のように大地を裂き、空間を切り裂く。
そして、その一撃が、使徒の王の胸を貫いた。
「……これで、終わりだ」
使徒の王は、ロイの剣に貫かれた瞬間、無数の裂け目を開き、爆発するように消えた。
その爆発の中で、黒月が一瞬、暗く沈んだ。
――だが、それが終わりではなかった。
黒月が、再び輝きを取り戻したとき、その空には――
「……まだ、何かが残ってる?」
ロイが空を見上げると、エファトもまたその空を見つめ、静かに呟いた。
「奴らの本当の力は……これからだ」
◆
次なる戦いの足音が、確かに、迫っていた。
ロイとエファト――その先に待ち受ける運命とは。




