七聖鎧団、最初の鎧《白銀槍アグナス》
王都の郊外、地下迷宮の旧水脈。
かつて下層民の避難区域としても使われたその空間に、異様な気配が立ち込めていた。
空気が重い。皮膚に突き刺さるような祝福圧。
そして、光の粒子と共に転移陣が描かれる。
「七聖鎧団、第一鎧。白銀のアグナス、此処に顕現」
銀髪の青年が現れる。白銀の鎧に身を包み、その背には巨大な十字槍。
その姿は、まさしく“神の兵器”とでも呼ぶべき神々しさを放っていた。
「命令通り、《黒の楔》の拠点を発見した。ロイ・クロード……そして、呪因子保有者リリィ・クロードを即時拘束する」
リゼが前に出て笑う。
「ずいぶんと堂々と名乗るわね。お坊ちゃんは相変わらず様式美がお好き?」
「貴様は……リゼ・エルフリーデか。呪術研究の禁忌領域に足を踏み入れた“裏切り者”。処刑対象A-02」
「それ、褒め言葉として受け取っておくわ」
そのとき、ロイが前に出る。
「リリィには一指も触れさせない。触れたら──お前ごと世界を呪い殺す」
アグナスはため息をつく。
「ならば……お前を“死なせない”だけだ。何度でも殺し、何度でも蘇る。
それが我が祝福《不滅の循環》」
彼の身体が淡く光る。祝福装備の効果が解放されると同時に、白銀の鎧が光の結晶を生み出していく。
「祝福とは“神の認可”。貴様のような呪われし存在に、我らは倒せない」
ロイが構える。
《呪装適応・第二段階:黒環反転リンク》
《デバフ・全属性耐性 -500%/呪詛ダメージ 反射倍率+2000%》
《対不死特化式:刻呪の環刃》発動
「その“不死”――試してやるよ。呪いの前では、死ねないことが必ずしも強さじゃない」
ロイの動きが加速する。
一瞬で距離を詰め、環状の刃を槍へ叩きつけた。
金属音が鳴り響き、火花が飛び散る。
アグナスの槍が迎撃するが、刃が一瞬遅れて跳ね返った。
「なに……っ、この反射は……!」
「“呪い”はな、接触した力そのものを“逆に返す”んだよ」
「貴様……相手の属性を“利用”しているのか!?」
アグナスが反撃に転じる。
槍の先端に純白の魔力が収束し、ロイの心臓を狙って突き込んできた。
「これで終わりだ、呪われし者よ!!」
だが──ロイは、一歩も退かずにそれを喰らう。
その瞬間。
《受けた祝福ダメージ、反射》
《対象の祝福回路に“呪詛浸蝕”を付与》
《不滅の循環、錯乱開始》
「が……ああっ!!?」
アグナスの体が突然痙攣する。
白銀の鎧に、黒い罅が走る。祝福の力が、自らの肉体を侵食していた。
「言っただろ。呪いは、相手の力そのものを逆手に取る。
お前の“不死”は……『死なないことが前提』で動いている。
でも、“死ねない”ってのは、“壊れても回復する”って意味じゃない。
壊され続ける痛みを、永遠に味わい続けるだけだ」
ロイが呟く。
「その状態で……祝福がいつまでも、お前を守ってくれると思うなよ?」
アグナスの膝が折れる。
鎧が崩れ、心臓部から黒い煙が立ち上った。
「馬鹿な……私は……“神に選ばれた”のに……こんな……」
「違うな。選ばれたんじゃない。“選ばされただけ”だ。
祝福ってのは、“呪いを否定する”ために作られた偽物だ」
アグナスが倒れる。
だが、即死はしない。
“不死”の祝福により、死ねず、再生もできず、永遠に苦しむ状態。
ロイは背を向けて歩き出す。
「……それが、お前の祝福の末路だ」
戦いの後、拠点では静かな空気が流れていた。
リリィは震えながら、ロイを見上げる。
「……お兄ちゃん、あれが……本気、なの?」
「ほんの序の口だ。七聖鎧団は、まだ“六人”残ってる」
リゼがため息交じりに笑う。
「でも、王家の誇る“白銀の不死騎士”がこの程度なら、案外どうにかなるかもね」
ロイは目を閉じた。
だが、心の中には確信があった。
これから先に待つのは、“ただの祝福”ではない。
「神そのもの」と直結した、真なる力――その全貌が、徐々に姿を現しつつあった。
「第二の鎧《雷鎖のエルネスト》、電撃襲来」
圧倒的な速度と雷の祝福を纏う“鎖の処刑人”が、《黒の楔》の中枢を狙う。
だがその裏では、ついにリリィの中で“異端の因子”が覚醒を始めていた――!




