呪装王グレイヴとの対峙
地下の闘技場のような空間に、異様な“呪気”が満ちていた。
玉座より立ち上がった男――グレイヴ。
かつて幾つもの王国を滅ぼしたと語られる“呪装王”が、今、ロイと対峙する。
「貴様の《呪装適応》、その力を見極めてやろう」
グレイヴの背後に浮かぶのは、一本の巨大な黒剣。
ただの黒ではない。刃身に走るのは無数の死者の顔――
《黒焉の剣》。装備した者の魂すら蝕むとされる、最悪級の呪具。
「……強化呪具の複数同時制御。しかもあれを本体にしてるのかよ」
ロイは即座にカースリンクを最大出力へ。
《呪装適応・第六段階》――
それは呪具との共鳴率90%を超えた時にのみ発動可能な“超限界装備”。
だが、グレイヴの“適応率”はそれを遥かに超えていた。
「来るぞ、ロイ!!」
グレイヴが空間を蹴る。
次の瞬間、闇を切り裂く斬撃が走った。
「――ッ!」
ロイは間一髪で《絶叫の盾》を前に出す。
ギィン!
甲高い音と共に、盾が軋む。
衝撃の余波だけで地面が砕け、周囲の呪具が吹き飛ぶ。
「なるほど……その盾、呪いを“防御力”として昇華しているのか」
「正解だ。でも、それだけじゃない」
ロイの瞳が光る。
《腐肉の篭手》に蓄積された瘴気を放出。
それは瞬時に鞭のような形となり、グレイヴに向けて伸びた。
「ふっ、浅い!」
グレイヴは呪剣を軽く振り、腐肉の鞭を斬り払う。
だが、それこそがロイの狙いだった。
「切ってくれて、助かったよ」
「……何?」
鞭の切断面から、瘴気の煙が爆発的に拡散する。
それは視界と感覚を奪う“精神干渉型”の呪い――
呪いによって築かれた“霧”の中に、ロイが飛び込む。
「一撃――入れるッ!!」
ロイの呪剣が、一直線にグレイヴの胴を狙った――
――だが、
「遅いな」
風のような刃が、ロイの横腹を浅く切り裂く。
「くっ……!」
霧が晴れると、グレイヴの姿はロイの背後。
「俺の《黒焉の剣》は、呪気を“空間”ごと裂く。貴様のような小細工は、通じん」
だがロイも、すぐさま跳び退いて体勢を立て直す。
「この程度で折れるほど、甘くねえよ」
◆
遠巻きにそれを見守るエリシアとレナ。
「呪装王って……あんなレベルなの?」
「今のロイでも、まともに戦えるかどうか……それほどの相手よ」
「でも、ロイは戦ってる。折れない心で」
レナが、拳をぎゅっと握る。
彼女は分かっていた。ロイがどれほど無茶をしているかを。
けれども、彼は誰よりも強くあろうとしていた。
“呪いで世界を覆す”――その覚悟を、背負って。
◆
ロイは短く息を吐いた。
(まだだ……もっと、呪いを引き出せ)
彼の内側で、カースリンクがうごめく。
《第七段階》へ移行するには、さらなる呪具融合が必要。
そしてその代償は、肉体の崩壊にすら至る。
だが、ロイの手は震えない。
「ならば、見せてやるよ――“祝福”に選ばれなかった者の、生き様ってやつを」
ロイが呪具を解放する。
次々に周囲の装備を引き寄せ、それらを瞬時に適応・装備。
《呪装適応 第七段階・混在型融合》
――複数の呪具を同時運用し、形状と効果を混成した特異装備化。
黒い鎧、剣、マント、全てが呪いで構成された異形の姿。
「なるほど……その姿、実に“呪装”だ」
グレイヴが剣を構える。
「ならば、貴様を“王の候補”として認めよう。――死合うに、値する!」
次の瞬間。
二人の呪装使いが、同時に跳び出す。
激突――!
◆
時間がどれだけ経過したか分からない。
呪いと呪いのぶつかり合い。
空間すら砕け、地下空間は崩壊寸前だった。
ロイの体はボロボロだ。鎧の一部は砕け、呪具の反動で内臓にダメージが及ぶ。
だが、ロイの瞳は消えない。
「まだだ……! まだ、“俺”は止まってねぇ!」
呪いを喰らう。痛みを喰らう。絶望を、恐怖を、すべて装備として纏う。
それがロイの戦い方。
「受けろ、俺のすべてを――!」
最後の一撃。
ロイの呪剣が、グレイヴの呪装を砕いた。
◆
――沈黙。
グレイヴは膝をつく。
その口元に、微かな笑みが浮かんでいた。
「……素晴らしい。“呪装の王位”に、相応しい」
ロイはゆっくりと立ち尽くし、剣を下ろす。
「俺は王になるつもりなんてない。ただ……」
「“呪いを力に変える”、その道を切り拓く……か」
グレイヴは頷く。
「ならば、その力――貸そう。お前の進む道が、ただの破壊でないことを信じてな」
グレイヴが手をかざすと、一冊の“呪装書”が宙に現れる。
それは彼がかつて呪具のすべてを記したとされる、伝承の書物。
「……持っていけ。これが、お前の未来を照らすのなら」
◆
ロイはそれを受け取った。
そして、深く一礼する。
「感謝する。……呪装王、グレイヴ」
「行け、若き王。呪いの時代は、まだ始まったばかりだ」




