シェイド辺境域と、呪装王グレイヴ
シェイド辺境域――そこは、あらゆる祝福から遠ざけられた者たちが追放される、呪われた土地。
腐蝕する地表、黒く澱んだ空気、そして何より“祝福の加護”が一切届かない空間。
ロイたちの旅は、ここからさらに深い“呪いの核心”へと進む。
「この先に集落があるの?」
レナが不安げに問う。
彼女の言葉も無理はない。この地に足を踏み入れてからというもの、肌が焼けるような痛みが断続的に襲ってくる。
これは単なる環境によるものではない。“呪いの密度”そのものが異常だった。
「ああ。元祝福騎士が記録してた。“辺境の谷に、呪装を纏う亡国の王が潜む”ってな」
ロイはフードを深く被り、歩を進める。
「本当にグレイヴがいるなら……ここで得られるものは大きい」
「でも、問題もあるわ」
エリシアが静かに言った。
「彼は“呪いに飲まれた”という噂もある。意思を保ったまま何百もの呪具を扱うなんて、常人には不可能」
「呪装適応も、限界はある。私たちの方が壊される可能性もあるってことか……」
「それでも行く。呪いで強くなるなら、どこまででも貪る。それが俺の戦い方だ」
ロイの言葉には、迷いがなかった。
それだけで、エリシアとレナはもう十分だった。
彼が歩き続ける限り、彼女たちも共に戦う覚悟を決めている。
◆
数時間後――
彼らは谷間に築かれた黒石の集落へとたどり着いた。
見た目は廃墟に近い。崩れた建物、黒くすすけた壁、そしてそこに住む人々の目は深い闇を湛えている。
だが、彼らの腰には全員、呪具が提げられていた。
「……やはりここは、呪いを“装備”として扱う集落か」
「カースリンクの基盤が、こんな場所で根付いていたなんて」
すると、一人の老婆が近づいてきた。
「旅の者か。呪われてなお歩くとは、大したもんじゃ……おぬし、“呪装適応”持ちかい?」
老婆の目がギラリと光った。
ロイは驚いたが、あえて肯定する。
「……そうだ」
「なら、王に会う資格はある。ついてこい」
老婆は迷いなく歩き出した。ロイたちは互いに頷き合い、その後を追う。
◆
数分後。
彼らは地下へと続く階段を降りていた。
「ここは……王の居城?」
「いいや、“呪いそのもの”の墓場よ」
老婆の言葉どおり、地下は無数の呪具で埋め尽くされていた。
浮遊する黒い球体、異様な形の鎧、血で染まった杖、歯のような刃――
いずれも触れただけで正気を失いそうな、強烈な呪詛を放っていた。
その最奥に、彼は座していた。
黒き王冠を被り、巨大な玉座に凭れかかる男。見た目は若くすらあるが、その瞳は千年の闇を宿していた。
「……貴様が、“呪装適応”か」
その声は、まるで地の底から響くように重く、冷たい。
ロイは一歩踏み出し、静かに答える。
「ロイ。呪装を喰らい、祝福に抗う者だ」
「ほう……威勢はあるな。だが、その名に価値があるかは、これからだ」
次の瞬間。
空間が震えた。
無数の呪具が、まるで意志を持ったかのように浮かび、ロイに襲いかかる。
「来るぞッ!!」
ロイは反射的に後退し、呪剣を構える。
「試すというのか、グレイヴ!」
「試すも何もない。“呪装”を名乗るなら、まずはこれを乗り越えろ!」
◆
空間を覆う“呪詛の嵐”。
ロイはその中に飛び込む。
呪装適応《カースリンク・第六段階》、発動――!
黒い紋章が彼の体に浮かび上がり、まとわりつく呪具を“装備”へと変換していく。
「――これが、俺の力だ!!」
呪具がロイの腕に融合する。
一つは“絶叫の盾”、もう一つは“腐肉の篭手”。
どちらも使用者の精神を削る装備だが、カースリンクが適応し、無理やり性能を引き出していた。
「ほう……適応率91%。面白い。だが、“俺の呪い”はここからだ」
グレイヴが立ち上がる。
その背に浮かぶのは、かつて王国を滅ぼしたという伝説の呪具《黒焉の剣》。
「来い、ロイ。お前が“希望”となるか、“絶望”に沈むか……見極めてやる!」




