神殿の崩壊と、旅の再始動
神殿の頂が、静かに崩れ落ちていく。
あれほど神聖で、近づくだけで圧を感じた“祝福の象徴”が、まるで砂城のように音を立てて崩壊していく様子を、ロイたちはただ見つめていた。
「……終わったの?」
レナがぽつりとつぶやく。
「いや、始まったんだよ」
ロイは握った拳をゆっくりと下ろす。
手にはまだ、先ほど解読した石版のかけらがある。そこには確かに刻まれていた。
『呪いは喰らい尽くせば、神をも超える』
それはただの言い伝えではなく――
実際に、エファトという存在が“祝福の頂点”を一太刀で切り伏せた現実こそが、それを裏付けている。
「ハインリヒが倒されたことで、この神殿も役目を終えたんだわ」
エリシアが落ち着いた声で周囲を観察している。
あちこちに崩れた瓦礫や剥がれ落ちた祝福紋が散らばっていたが、もはやそれは“神聖”ではなかった。
「……祝福の真実、そして呪いの可能性。俺たちはそれを目にした。
それを――伝えにいかないといけない」
ロイの言葉に、エリシアもレナもうなずく。
「でも、どうやって?」
「神殿が崩れ、証拠も消えてしまう。証言だけで信じてもらえるかしら?」
「信じさせるさ」
ロイは真っすぐに言い切る。
「俺の呪いは、まだ終わっていない。
“呪装適応”――この力で、俺は祝福の虚構をぶち壊す」
「ふふっ、ロイくん……やっぱり変わったね。最初はただ呪いを使いこなすだけだったのに、今は自分で世界を変えようとしてる」
「……変えてやるさ。祝福に選ばれなかった“誰か”が、俺みたいに絶望して終わらないように」
そのとき、崩れた天井の隙間から、青空が覗いた。
まるでこの神殿が、ようやく“真実を見せた”かのような――そんな空だった。
◆
数日後。神殿近郊の村にて。
ロイたちは、神殿で拾った石版と呪具を携えて、今後の方針を相談していた。
「次は、祝福教会の中心部……“聖域ラディナ”ね」
「さすがに正面突破は無理よ。いきなり呪いを掲げた連中が現れたら、問答無用で粛清されるわ」
「そこでだ」
ロイは一枚の地図を広げる。
「この“シェイド辺境域”――呪われた者たちが流れ着く集落。そこで“新たな装備”を探す」
「呪い装備……ね。より強力なカースリンクの触媒を?」
「それともう一つ、“ある人物”に会う」
「誰?」
「……《呪装王グレイヴ》。かつて、祝福に抗い、すべての呪いを収集したという亡国の王。
死んだって話もあるが、もし生きているなら……“次の鍵”を握っている」
エリシアもレナも、驚きはしなかった。
ロイはいつも、無謀な道を選ぶ。
でも、それを“貫けるだけの強さ”を、今の彼は持っている。
◆
その日の夜。
ロイは静かに野営地の外に出る。
見上げた空は、雲一つない満天の星。
「……エファト。あんたのおかげで、ここまで来れた」
あのとき、彼は言った。
『選ばれなかった者の怒りを、力に変えろ』と。
「今なら、少しだけあんたの言ってたことがわかるよ」
――でも、俺はあんたみたいにはなれない。
「俺は俺の戦いをする。呪われた“全員のため”に、な」
星の光が、祝福の残骸を淡く照らしていた。
まるで、“神に見捨てられた者たち”を肯定するように――。




