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第一席、降臨

夜が明ける頃――ロイたちは審問区画の外縁に到達していた。


そこは、かつて祝福の頂点を決める“叙位の儀”が執り行われていた地。

今や封鎖され、選ばれし者のみが足を踏み入れる“禁域”となっていた。


「ここが……“聖審堂”……」


灰色の石造りの回廊が延々と続き、上空には巨大な神殿が浮かんでいる。

それは、まるで天上から人々を裁くかのような威圧感を放っていた。


「妙だな……警備がいない」


レナが警戒の声を漏らす。

周囲は不自然なまでに静かだった。


「いや……違う。いる」


ロイが呟く。


「俺たちを“見逃してる”んだ。通せ、って顔してる。――来い、ってな」


それは罠だ。誰の目にも明らかだった。


だが、ロイは迷わず一歩を踏み出した。


「行くぞ。――祝福の中枢に、蹴りを入れてやる」


仲間たちもまた、その背を黙って追った。



審堂の最奥。

神殿の中央広間にて、彼は待っていた。


「ようこそ、“呪われし者たち”よ」


白銀の鎧を身に纏い、背に光翼を携えた男。

その顔に、微笑の仮面を貼り付けたような冷徹さを湛える。


第一席・ハインリヒ・ザルバート。

かつて七英雄の一角として“神より選ばれし祝福”を振るった最強の聖騎士である。


「これが……第一席」


レナが息を呑んだ。


“圧”が違う。


その場に立つだけで、心臓が凍るような圧倒的存在感。

まるで神に対峙しているかのような錯覚すら覚える。


だが、ロイの目は微塵も揺れていなかった。


「……お前が、“祝福の秩序”の守り手か」


「守り手……? いや、私はただ、必要な淘汰を実行する者だ。

――呪いとは、世界を蝕む病。貴様は、その発生源である」


ハインリヒの声は澄んでいた。

一切の怒りも侮蔑もない。ただ、静かに“断罪”の意志だけが込められている。


「貴様は、自らの存在が“間違い”であると知るがいい」


彼が一歩踏み出すと同時に、空間が震えた。

天井の光が集まり、彼の背に巨大な剣の形をした祝福が現れる。


それはまさしく、“神の裁断”を象徴する神器だった。



「やばい……あれは、祝福の極致……!」


レナがそう言った瞬間、ロイが叫ぶ。


「散れ! まともに食らったら全滅だ!」


次の瞬間、光の剣が振り下ろされた。


ズン、と空気が押しつぶされ、空間そのものが歪む。


ロイはギリギリで跳躍し、呪装を展開――


「カースリンク・完全展開デスアーマー・フルリバース!」


全身を覆う呪いの装甲が、赤黒い瘴気をまき散らしながら形成される。


――が、それでも受け止めきれない。


「ぐっ……くそ、これが……第一席……っ」


祝福の絶対値が違いすぎる。

力、速度、精度、そのすべてが常軌を逸していた。


「この世界において、“祝福”は絶対だ。呪いの者よ。貴様の存在は……」


ハインリヒが次の一撃を振り上げた――その時だった。


キン――と甲高い金属音が響いた。


光の刃が、空中で“斬られた”。


「…………?」


ハインリヒの目が細められる。


「……誰だ?」


「いや、驚いた。今の攻撃を“祝福”と呼ぶか?」


その声に、ロイたちはハッと顔を上げた。


神殿の柱の上に、立っていた。


白銀の髪を風になびかせ、古びた鉄剣を肩に担いだ青年――エファト・ストライヴ。


「貴様……まさか……“不老剣”……?」


「残ってるんだよ、まだな。俺みたいなのが。お前らの美談の裏で、何千年も剣だけ振るってきた化け物が」


エファトは軽く地に降り立った。

その動きに、一片の無駄もない。


「この戦いに興味はねえ。だがな――」


不老剣が、ぴたりとハインリヒの額へと向けられる。


「“こいつら”の前で、神を騙っていい気になってんのが……どうにも我慢ならねえ」


その瞬間、空気が完全に変わった。


ロイが感じる。

――この人は、俺より強い。


だが、不思議と、怖くなかった。

むしろ、背中を預けたくなるような、そんな“確かな剣気”があった。


「ロイ。お前は進め。俺がこいつを抑える」


「……なぜ?」


「お前の剣に、似てたからな。かつての“あいつ”の」


意味深な言葉を残し、エファトは前へと出る。


「ハインリヒ。七英雄の残り香がどうした。千年分の剣、見せてやるよ」


――神殺しの剣と、神の剣。


祝福の原罪に触れる戦いが、ここに始まろうとしていた。



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