剣の記憶、不老の目撃者
「……ロイ、大丈夫か?」
戦いの後、サイファを退けたロイは膝をついていた。
体中に残る呪詛の反動。視界はかすみ、息も荒い。
「平気……なわけないけど……これが、“呪い”ってやつだろ」
にやりと笑ってみせるロイ。
その表情に、仲間たちは黙って頷いた。
彼らの前に立つ者は、もはや“呪われた存在”などではない。
明確な力と意志を持つ、“抗う者”そのものだった。
だが――その場を、上空から冷静な視線が見下ろしていた。
◆
「“呪装適応”……よくぞ、そこまで昇華したな」
少年のような姿の男――エファト・ストライヴが、静かに呟く。
白銀の髪は風に揺れ、鋭い双眸はロイを見据えていた。
その背にあるのは、年季の入った鉄剣。光沢も魔力もない。
だが、それが**“不老剣”**であると知る者は、この時代にはほとんどいない。
エファトは、今や“歴史そのもの”と化していた。
(……あの剣の振るい方。確かに、あの男の系譜か)
かつて、祝福に頼らず力を極めた剣士がいた。
呪いと剣を極め、祝福の時代に抗った“闇の騎士”――だが、歴史から抹消された男。
その意志が、ロイという少年に宿っていることを、エファトは見抜いていた。
「まだだな。まだ“届いて”いない。……だが、面白い。久しぶりに、少し歩いてみるか」
そう呟くと、エファトは一歩、前に進む。
気配を完全に絶ち、人知れず――次の舞台へと向かっていった。
◆
その夜、ロイたちは焚き火を囲んでいた。
「……あの六席のサイファ。まだ何かを隠してた気がする」
傍らで、仲間の一人がつぶやく。
「祝福の中枢、か。あいつらが“神の代理人”とまで言われてる理由……気になるな」
ロイは火の中を見つめながら、黙っていた。
彼の脳裏には、最後にサイファが口にした言葉が残っていた。
『これはあくまで“審判”に過ぎない』
(つまり……これからが“本当の審問”だってわけか)
ロイはゆっくりと立ち上がった。
「次に向かうのは、“審問区画”だ。祝福の核心に、もっとも近い場所……」
「そこに、何がある?」
「さあな。けど、“あいつらが隠したがってるもの”は、確実にそこにある」
その言葉に、仲間たちは頷いた。
ロイの旅は、もはや呪いの復讐ではない。
この世界に蔓延る、“祝福という支配の真実”を暴くための戦いになっていた。
◆
そして――その“審問区画”の奥。
白い礼拝堂の中。
一人の男が、銀の装束を纏い、両手を祈りの形に組んでいた。
「――サイファが破れたか。やはり、“呪いの者”を放置すべきではなかったな」
男の名は、ハインリヒ・ザルバート。
かつて“祝福の七英雄”と呼ばれたうちの一人。
今は、その過去を捨て、“守聖騎士団・第一席”として君臨している。
「ロイ……呪装適応者。貴様の存在は、秩序そのものに対する背信。
祝福の教義において、許されざる罪である」
彼が立ち上がると、背中の装具が機械仕掛けに開き、光の羽根が生まれる。
「次は、私が行こう。かつての罪もろとも――“呪いの血脈”を、この手で断つために」
彼の瞳には、冷たい確信が宿っていた。
◆
そして、その礼拝堂の屋根の上。
そこに立っていたのは――またしても、あの不老の少年。
「……やれやれ。“七英雄”か。
お前みたいな化け物までまだ残ってたとはな、ハインリヒ」
エファトは、軽く首を鳴らした。
「こっちも少し本気を出すか……。そろそろ、“剣”の記憶も呼び起こしてやらねばな」
彼が剣に手を添えると、無機質な鉄剣が、わずかに震えた。
まるで、それが再び戦場に立つ日を待ち望んでいたかのように。
次回予告




