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魔視の審判

「――“識断視界オールレコード”」


その声と共に、空間が染まる。

まるで全世界が“紙”になり、そこにすべての情報が書き込まれているかのような感覚。


(な、なんだ……!? 頭が、やばい……)


ロイの脳内に、凄まじい情報の奔流が押し寄せる。

それは“視る”のではなく、“全てを読み取られる”ような感覚だった。


「この能力は、“真実”を強制的に視せる。お前の過去も、未来すらもな」


サイファの瞳が、白銀に輝く。

その視線の先で、ロイの記憶が、勝手に再生され始めた。



「……兄ちゃん、なんで“祝福”もらえなかったの?」


まだ幼い頃の妹の声。


「おれは……選ばれなかっただけだよ。大丈夫、呪いでも生きていけるから」


そう言って笑った、自分の顔。

あの頃の悔しさ。屈辱。涙。怒り。――そして、誓い。



「やめろっ……!! 勝手に……見んなっ!!」


ロイが叫ぶ。が、視界は強制的に広がる。


次は――母親の死。

呪い持ちとわかった瞬間、診察を拒まれ、救えなかった現実。


次は――唯一の親友の裏切り。

「ごめん、俺もうロイと一緒にいられない。怖いんだ、呪いって……」


次は――町の大人たちの罵声。

「呪われた子は、呪われたまま腐るだけだ。さっさとどこか行け!」



「……お前の人生は、呪いによって否定され続けてきた」


サイファの言葉は、まるで裁判官の宣告のようだった。


「だからお前は、逆に呪いを武器にしようとした。

だがそれは、“弱者の逆恨み”に過ぎない。正義ではない。ことわりでもない」


「…………」


ロイは、静かに目を伏せた。


が――次の瞬間、彼は笑った。


「……そっか。ありがとう、サイファ」


「……何?」


「思い出させてくれて。俺がなぜ、“呪いを信じる”って決めたのか」


ロイの足元から、黒紫のエネルギーが一気に噴き上がる。

光が、闇が、呪いが、すべての感情が、ロイの中で混ざり合い――


「俺は弱かった。祝福が欲しかった。呪われたくなかった。

けど――それでも、“呪いしかなかった”んだよ!!」


怒号と共に、スキルが発動する。


《呪装適応・第二解放カースリンク・フェーズツー


「な……!?」


サイファが目を見開く。


黒紫の鎧が、ロイの身体を包む。

背に浮かぶ呪紋はさらに複雑化し、禍々しさの中に美しささえ宿す。


「呪いは、俺を“ここまで”連れてきてくれた。

なら――呪いのすべてを、俺は力に変えてやる!!」


ロイが右手を構える。

そこに現れたのは、呪詛と憎悪を固めた“呪魂刃じゅこんじん”。


一閃。空間が裂ける。


サイファは咄嗟に跳躍し、それを避ける――が、遅い。

肩口から裂けた外套。その下の鎧に、呪いの黒が滲んでいた。


「……読めない? 俺の攻撃、読めなかったのかよ、六席」


ロイの声に、サイファが歯を食いしばる。


「バカな……! 全情報を観測していたはず……ッ!」


「違ぇよ。あんたが見てたのは、“呪われた過去”だけだ」


ロイの瞳が、今や燃えるような紫光を宿していた。


「今の俺を構成してるのは――呪いだけじゃねえ。“それを背負った俺自身”だ」


「ッ……!」


「“祝福”ってのは、上から降ってくるもんだ。

けど、“呪い”は下から這い上がるための武器になる。

俺は、俺自身の手で、それを最強に変えてやるって決めたんだよ!!」


一気に距離を詰めるロイ。

サイファは応戦するが、攻撃の一手一手が、“読めない”。


彼の“識断視界”は、情報が多すぎて逆に対応しきれなくなっていた。


(こいつ……! 呪いの力で、思考を歪ませてる……!?)


思考を読ませない。未来を固定させない。

変則的な動きと、想定不能の呪詛の発動パターン。


「読めねえなら、どうすりゃいいか――簡単だ」


ロイが叫ぶ。


「全部ぶっ壊しゃいい!!」


呪魂刃が、サイファの視界を裂く。

空間ごと吹き飛ばされ、彼は地に伏す。


「くっ……!」


サイファは息を切らしながら、ロイを見上げた。

その瞳には、敗北と、わずかな――敬意があった。


「まさか、ここまでとは……。だが、これはあくまで“審判”に過ぎない」


「上等だ。お前の神だか祝福だか知らねえが――」


ロイが呟くように言った。


「俺が、“全部呪ってやる”よ」



その様子を、遠くの山の上から一人の少年が見ていた。


白銀の髪。鋭い瞳。

背には、ただの鉄でできたはずの――しかし朽ちぬ剣。


「……面白くなってきたな、“呪装適応”の継承者よ」


彼の名は、エファト・ストライヴ。

不老不死の剣士。不老剣の使い手。

数千年を生き、幾度とない戦を経た男。


「さて……“祝福”と“呪い”、その対決がどこまで本気か。ちょっとだけ覗いてやるか」


不老の騎士は、音もなくその場を離れた。



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