神葬(しんそう)の序曲
祝福の都――セイリオス聖都。
その最奥、神殿にて。
「……ついに、来るべき時が来たか」
声を発したのは、聖騎士団の頂点に立つ存在――光翼将リデア・アゼルト。
白金の長髪に、純白の甲冑。
その背には、物理的な意味で“翼”が生えている。祝福の中でも、ごく一握りにしか与えられぬ“天授の徴”。
「呪いの反逆者、ロイ・アークレイン……。彼の存在は、秩序を乱す歪み」
玉座の間に、祝福の精鋭が並ぶ。
その中心には、十二の席が設けられていた。
そう――選ばれし《十二祝福者》が、ここに集結していた。
◆
第一席:天翔のセレスティア
――空を支配する祝福者。空間跳躍と風の加護を持つ。
第二席:焔冠のグラウディス
――あらゆる火を操る祝福者。都市一つを焼け野原に変える火力を持つ。
第三席:聖言のマリーネ
――声と言葉を司る祝福者。彼女が発した命令は絶対の律と化す。
第四席:鋼華のゼフリス
――防御の頂点。万物の刃を通さぬ祝福の鎧を持つ。
第五席以下の者たちも、すべて人外の力を持つ、まさに神々の化身だった。
「愚かなことだ」
セレスティアが言う。
「呪いが人を救うなどという幻想……許されるべきではない」
「だが油断はならぬ。奴は、すでに我らの幾人かに匹敵する力を持っている」
ゼフリスが重々しく応じた。
「《呪装適応》……。あの力は、“神の法則”に干渉し始めている可能性がある」
リデアは静かに頷き、そして告げる。
「“神葬計画”を、前倒しする」
その言葉に、場が静まり返る。
「――本当に、実行なさるのですか」
マリーネが眉を潜めて問う。
「はい。ロイ・アークレインの存在は、“神を殺せる可能性”を示してしまった。
ならば我々が先に、“神を正しく殺す”しかない」
「……祝福の統治を、自ら終わらせるおつもりか」
「統治ではなく、昇華です」
リデアは静かに立ち上がった。
「“選ばれた者”のみが神に至る――そんな制度に、もはや意味はない。
我々は神を“正しく喪い”、新たな祝福を築かねばならぬ。
そして、その時には不要なものを……呪いを、完全に消し去る」
それは、世界を根本から変える宣言だった。
神を殺し、祝福を再定義する。
そのためには、反逆者たる“呪いの希望”――ロイを、潰さねばならない。
「まずは“試金石”として、一人送りましょう」
リデアが手を挙げると、一人の騎士が前に出た。
「――第六席、《魔視のサイファ》。お前に命じる」
フードを被った人物が膝をつく。
彼は祝福の中でも特異で、“あらゆる真実を見抜く眼”を与えられた者だった。
「はい、リデア様。すでにロイの位置は特定済みです。次の交戦地点も、推測できます」
「いい。必ず、彼を“観測”してこい。……そして、判断せよ。“処分”に値するか否かを」
「御意」
サイファは立ち上がり、そのまま姿を煙のように消した。
◆
その頃、ロイたちは新たな村での“異常事態”に巻き込まれていた。
「なんだよ、これ……全部、“祝福の呪文式”……? しかも逆転構成だ……」
村一面に刻まれた魔法陣。
祝福式でありながら、“呪いと親和する”構造を持っている。
「誰がこんな……?」
そこへ、一人の男が現れる。
「……ようやく来たか、呪いの適応者」
フードを脱ぐその男。片目に刻まれた“天眼の紋章”が光を放つ。
「第六席、“魔視のサイファ”……!」
エルナが目を見開いた。
「お前らに聞きたい。“祝福”はお前たちにとって、希望か? それとも、呪いか?」
「そんなもん、決まってる」
ロイは一歩前に出た。
「“祝福を受けた奴ら”が上に立ち、呪われた庶民が踏みつけられる――
それが“希望”なんて笑わせんなよ」
サイファはその言葉を黙って聞いていた。
やがて目を閉じ、ぽつりと呟く。
「……やはり、“処分対象”だな」
その瞬間、空間が割れた。
光線、呪紋、祝福式――すべてを複合した超複合魔法が、ロイたちへと放たれる。
「来やがれ、六席!」
ロイの背に、再び黒紫の光輪が浮かび上がる。
《呪装適応》――再起動!
そして、彼とサイファの死闘が、始まった。




