偽光の果て
──これは、かつて“祝福”と“呪い”が同一視されることなど、ありえなかった時代。
人々は祝福を神の贈り物と信じ、呪いを忌むべき穢れとして畏れ、退け、断罪した。
だが今、ロイとリュシオンというふたつの“異端”が交差しようとしていた。
「ッハアアアアアアァァァッ!!」
ロイが放つ《呪装適応・第四段階――“呪壊光輪”》が、空間を切り裂いて突き進む。
その黒紫の光輪は、祝福のそれと同じく神聖な輝きを放ちながら、どこか虚ろで、歪んだ光を孕んでいた。
「……なるほど。君は“呪いを光に変えた”か」
リュシオンは祝福剣と呪詛剣を交差させ、突進するロイの一撃を真正面から受け止めた。
ガギィィィィィィィンッ!!
地鳴りのような衝撃音。
地面が抉れ、木々が千切れ、風が悲鳴を上げる。
「……重い。だが、まだ甘いぞ」
リュシオンが力を込めると、その一歩だけで空間が軋んだ。
「《聖呪双裂・断界穿》!」
双剣が交差し、X字の斬撃がロイを包む。
それは祝福の清浄と呪いの蝕みを、同時に相手へと放つ究極の“二重矛盾”。
「くっ……!」
ロイは腕をクロスし、呪装でガードを固める。
だが、祝福の“加護破壊”と、呪いの“累積汚染”が同時に襲いかかる異常な斬撃。
ロイの装備すら一時的に機能不全に陥った。
(装備の呪いが……“適応”じゃ追いつかねぇ……!)
「どうした、呪いの英雄。見せてみろ。君が“世界を変える覚悟”を本当に持っているのか」
リュシオンの言葉に、ロイは歯を食いしばる。
「――黙れよ」
ロイは静かに立ち上がり、背中の光輪をさらに強く発光させた。
「俺は英雄になりてぇんじゃねぇ。“呪いを背負った奴ら”が、もう泣かないようにするだけだ!!」
叫びと共に、ロイの足元に黒い魔方陣が浮かび上がる。
「《呪装適応・外法連結》!」
それは“呪われすぎて世界から拒絶された装備”すら無理矢理にリンクさせる禁呪。
爆発的に膨れ上がるマイナス効果を、そのまま“攻撃力”へと変換する。
「ハアアアアアアアッッッ!!」
ロイが拳を突き出す。
一瞬だけ世界が無音になる。
次の瞬間、地平が割れ、雷光が走った。
呪いの波動が大気を焼き、時間すらたわむような感覚。
それは、ただの一撃ではない。
呪われた者たちの“怨嗟”をすべて背負って放った、決意の拳。
「ぐ……ぅッ!」
リュシオンが初めて後退する。
「その力……まるで“原罪”だ」
血を吐きながらも、彼はなおも立つ。
「だが、それではまだ足りない。“新しい時代”を築くには、“神を殺す覚悟”が必要だ」
「……上等だ」
ロイは立ったまま笑った。
「なら見せてやるよ……呪いの時代が、どうやって祝福の時代を終わらせるかをな!!」
両者が再び激突しようとした、その時だった。
――ギュウウン……!
時空が、ねじれた。
空間が裂けるように、どこかから“もう一つの気配”が現れた。
「……そこまでだ、二人とも」
現れたのは、黒衣の剣士。
見た目は十八歳ほどの少年。だが、瞳に宿る光は明らかに“千年の重み”を抱えていた。
「――エファト・ストライヴ……ッ!?」
ロイもリュシオンも、思わず動きを止めた。
伝説の存在。
不老騎士。
“あらゆる時代を見てきた者”。
「争いは必要だ。だが、今のお前たちは“自己定義”の押し付け合いにすぎない」
エファトの声は穏やかだったが、その剣気はすでに“次元”を断ち切るほどに鋭い。
「……あんた、何者だよ……」
ロイが震える声で問いかける。
「ただの通りすがりの不老者さ」
エファトは笑う。そして、たった一歩進んだ。
「だが、“世界が揺れる音”が聞こえたら、放っておけない性分でね」
エファトがその剣――《不老剣》を抜いた瞬間。
世界が、沈黙した。
「二人とも。今は“待て”。その争い、いずれ真に意味のある場所で続けることになる」
剣圧だけでロイとリュシオンの戦意を封じ込める。
「くそっ……! こんな……!」
ロイは悔しげに拳を握る。だが、その瞳は不思議と清明だった。
「……分かったよ。不老騎士」
リュシオンもまた、剣を下ろした。
「だが、ロイ。君と俺の戦いは……いずれ“世界の答え”を決めることになる」
「ああ、望むところだ」
剣を納め、リュシオンは静かに姿を消す。
そして、エファトもまた、再びどこかへ歩き去っていった。
残されたロイは、崩れた地平の上に立ち尽くす。
(あれが、“神を殺した者”……)
今はまだ追いつけない。
だが――
「絶対に追いついてやるよ、エファト。不老の天才に、呪いで届くって証明してやる……!」
夜風が吹く。
そして、遠くでまた、新たな“蠢き”が始まろうとしていた。




