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祝福を裏切った者

空から降り立った男は、静かに地面へと足を下ろした。

砂埃ひとつ立たないほどに、静かで完璧な着地。

だが、その存在感は一瞬で場を支配した。


「……やべぇな。アイツ、“格”が違う」


ロイはすぐに理解した。


この男は、レアンドル以上――

いや、祝福を統べる“上層の存在”。


「ふむ。随分と楽しそうだな、レアンドル」


その男の声は、淡々としていながらも、どこか“人を値踏みする”響きを持っていた。


「……第四聖騎士位、“リュシオン・カレイド”。なぜここに……!」


レアンドルの顔に焦りが浮かぶ。


「君の失敗をカバーしに来ただけだよ。これ以上、呪いに聖騎士団が後れを取るわけにはいかないからね」


リュシオン――彼の白銀の髪は風もないのにふわりと揺れた。

その背中に広がる二振りの剣。

片方は聖剣、もう片方は、**黒い瘴気を纏った“堕ちた剣”**だった。


「呪いを纏っている……祝福者が……?」


ロイは困惑した。


「ロイ、気をつけて!」

アステリアが叫ぶ。


「アイツ……もとから“祝福者”だったんじゃない! 祝福を――裏切ったんだ!」


「正解だよ、アステリア嬢」


リュシオンはやさしく微笑みながらも、まるで“心を見透かすような視線”でロイを見る。


「この世界に必要なのは、“均衡”だ。祝福が絶対であってはいけない。呪いも、また必要だ。だが、祝福者たちはそれを理解しようとしなかった」


リュシオンの言葉には、確かに理があった。


「なら、なぜお前は……そんな力を……!」


ロイは問いかけた。

呪いと祝福を共に抱えるなど、常人ならば精神が耐えられないはず。


「――簡単な話さ」


彼は、背中の黒剣を引き抜いた。


「俺は、“この世界を壊してでも、作り直す”と決めた。」


その瞬間、剣から黒い波動が奔った。

祝福と呪いが混ざり合った異形の魔力。


「ロイ、下がって!」

アステリアが前に出ようとするが、ロイは一歩踏み出した。


「……いいや、俺がやる」


「でも相手は――」


「関係ねぇ」


ロイの目は、もはや恐怖を通り越して静かだった。


「アイツは、俺と同じだ。祝福を否定した。……それなら、対話する価値がある」


リュシオンが口元を歪める。


「随分と大きくなったな、“呪われた少年”。君の成長は予想以上だ」


二人の間に、緊張が走る。


「じゃあ……俺から一つ聞く。お前は祝福を否定して、呪いを使った。何のためにそんな危険を犯した?」


ロイの問いに、リュシオンは、珍しくほんの少し、表情を曇らせた。


「――“英雄”を殺したのさ」


「……は?」


「昔、俺には兄がいた。“完全な祝福者”。正義の体現者だ。だが、奴は“呪われた村”を焼いた。理由は『祝福のない者は救済に値しない』。それが、あの教義だ」


ロイの目が見開かれる。


「止めたさ。何度も、何度も。だが、祝福を持たぬ俺の言葉は届かなかった。だから俺は、兄を――殺した」


「……」


「以降、俺は祝福を得た。だがそれは、“偽りの祝福”だった。だから俺は、呪いに接近した。均衡を取るために。もう一度、正義を定義し直すために」


その目は、かつてのロイと同じ、理不尽に焼かれた側の目だった。


「――……だから、俺はお前を試す」


リュシオンが構える。


「君が“新しい英雄”になる器かどうか、見極めてやろう。あの日俺が殺した兄のように、選民思想に染まるか。あるいは――」


彼の双剣が交差する。

祝福と呪いが共にうねり、空が軋む。


「新たな神話の礎となるか」


ロイも構えた。


「……面白ぇじゃねぇか」


呪装適応が進化する。

業の応報の先、因果の果て――


「《呪装適応・第四段階――“呪壊光輪アナザーヘイロー”》!」


呪いの力が光となり、背中に黒紫の後光を灯す。


それは祝福者の持つ光輪の、対となる偽光。


「来い、リュシオン。祝福も呪いも、まとめてぶっ壊してやる」


二人の光がぶつかった瞬間、

空間が歪み、雷鳴のような衝撃が周囲を包んだ。


その戦いの果てが、“祝福の正義”の意味を変えていく。



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