祝福本隊、襲来。
夜明け前、空がまだ鈍色に染まる時間帯。
その静けさを破るように、聖なる光柱が大地を貫いた。
「……来たか」
ロイが呟く。
祝福紋章が浮かんでいた空の一点から、巨大な“門”が出現した。
それは天界と地上を繋ぐ架け橋、《聖光門》。
その門から、一人の男が降り立つ。
「ロイ=ディアル。呪装適応――貴様がこの国に災厄をもたらす者か」
男の名は、レアンドル・ヴェルアイン。
聖騎士団の頂点、祝福階位第一位。
“祝福によって形作られた存在”とも称される、白銀の処刑者。
全身を純白の鎧に包み、背には大剣《聖焔裂剣》を携える。
歩くだけで空気が震えるその存在は、まさに“神威”。
「……随分、物騒な紹介だな。こっちはただ、呪われただけの庶民なんだけどな」
ロイは肩をすくめながらも、視線を逸らさない。
その横には、アステリアが立っていた。
先ほどまでの敵対的な態度は消え、代わりにあるのは“共闘の構え”。
「君は、引いてもいいのよ?」
「嫌よ。ロイ、あなたの呪いの強さをこの目で見た。あれはもう、“災厄”なんかじゃない。“意志”だわ」
「……言ってくれるな」
レアンドルが一歩、地を踏む。
瞬間、大地が白く染まった。
「聖域展開か!」
アステリアが目を見開く。
それは、祝福の加護を受けし者以外の存在を、全て“消去対象”とする空間魔法。
空そのものが祝福のフィルターとなり、呪いの気配を弾く。
「呪いなど、存在すべきではない。祝福だけが人を導き、正義を成す」
「なら、その“正義”で踏み潰された奴らの恨みは、どうなる?」
ロイが呟くと同時に、右腕に黒い瘴気が集まる。
《呪装:因果穿ち(カース・パージャー)》
過去の因果すら貫く、呪いの槍。
「……はじめて“呪装適応”が、少し羨ましいと思ったわ」
アステリアが笑いながらも、構えを取る。
「――いくわよ、ロイ!」
「おう!」
雷鳴のように、二人が駆ける。
ロイは呪いの槍を振るい、アステリアは星剣を掲げた。
だが、レアンドルは微動だにせず、大剣を地面に突き刺す。
その瞬間、大地から**“祝福兵”**たちが召喚された。
「これは……自動祝福具現兵か!?」
数十体の光の騎士たちが現れ、ロイとアステリアに殺到する。
ロイが槍を突き出すと、呪いの波動が一体を飲み込んで崩壊させる。
「こいつら、硬ぇな……!」
「祝福で構成された擬似魂。物理じゃなくて、概念ごと呪わないと効かない!」
「呪えばいいだけだろ!」
ロイは歪んだ笑みを浮かべ、呪装をさらに強化する。
《呪装適応:連鎖深度・第二段階》
その瞬間、黒い紋様が彼の右腕から胸へと広がった。
周囲の祝福空間にひびが入る。
「……強くなってる」
アステリアの目に驚愕の色が浮かぶ。
呪装適応とは、“呪いと共にあることを肯定する力”。
祝福が拒絶する世界で、呪いを深化させ、順応し、最終的に“反転”すら起こす。
「レアンドル……お前の正義が、誰かを殺した。俺はその“誰か”の代弁者でしかない」
「その“誰か”の声に、意味はない」
レアンドルがつぶやき、大剣を抜く。
《聖焔裂剣》は、
祝福そのものを物理化し、理を焼き尽くす剣。
次の瞬間――
「はあああああああっ!」
レアンドルの一撃が、地を割った。
爆発する光。吹き飛ばされるロイとアステリア。
「ぐっ……」
ロイが立ち上がる。だが、膝が震えている。
――勝てない。現時点では、まだ。
「まだお前は未完成だ、呪装適応。だが――」
レアンドルが大剣を振り上げる。
「……君を否定はしない。ゆえに、ここで終わらせる」
その刹那――
“風が止まり、時間が凍る”
その場の空間全体が、音を失った。
レアンドルの大剣が止まっている。
「……これは?」
ロイが、何が起きたのか理解できぬまま振り向く。
そこにいたのは、
一人の少年の姿をした剣士――エファト・ストライヴだった。
「……あの時の」
アステリアが小さく呟く。
「少しだけ手を貸すよ。正義ってのは、な、たまに忘れ物をするから」
エファトは、無造作に“ただの鉄剣”を抜いた。
だがその刹那、
祝福の空間が、切り裂かれた。
「――不老剣だと……!」
レアンドルが目を見開く。
ロイとアステリアは、その剣が切った“何か”を、まだ知ることはなかった。
だが、確信だけはあった。
この男は、時代そのものを斬れる存在だ――と。




