三者、交錯。
重なる視線は三つ――。
呪われた少年ロイ。
祝福に生まれた星の巫女アステリア。
そして、時の外からふらりと現れた不老の騎士エファト・ストライヴ。
沈黙を破ったのは、やはりロイだった。
「――なあ、俺は今、こいつとタイマンの最中なんだが。見物人なら黙っててくれよ」
「ふむ、すまんすまん。だが、“こいつ”ってのは失礼じゃないか?」
エファトは苦笑まじりに肩をすくめる。
「一応、わたしは“聖騎士団”の現役ですけど?」
アステリアが口元を少しだけゆるめて言う。
その瞬間、空気がまた変わった。
まるで空が逆巻くような、祝福の波動。
ロイはそれを見逃さなかった。
「来るか」
「来るわよ」
そして、星が降った。
アステリアの右腕に、白銀の星剣が現れる。
《祝装:星詠ノ剣》
祝福と一体化した神器級装備。
その刃は概念を断ち、呪いをも払い清める。
だが、ロイの目に怯えはない。
むしろ、口元に笑みさえ浮かべる。
「いい武器だな。だが、どうせ“祝福されたもの”だ。なら――」
黒き瘴気が渦巻き、彼の右手に呪いの剣が出現する。
《呪装:穢れ喰らい(ヴァイルグレイヴ)》
全ての加護を拒絶する、呪われし剣。
「俺の呪装適応は、そういう“前提”を喰らうためにある」
アステリアの星剣と、ロイの呪剣。
交差する一閃が、世界を二つに引き裂く。
「――ッ!」
互いに刃を交わした瞬間、空間が“軋む”。
概念と呪いがぶつかりあい、辺りの風景が歪んだ。
だが次の瞬間――
「……ふむ。これはこれは。なるほど」
エファトが、二人の間に“踏み入る”。
ただ一歩。
ただそれだけ。
だというのに、星も呪いも、彼の前では“静まった”。
ロイも、アステリアも、思わず動きを止める。
「……何をした?」
ロイが低く問う。
「何もしていないさ。ただの“立ち位置”だよ」
エファトの足元には、何の魔法陣もない。
祝福の光も、呪いの影もない。
ただ、その存在そのものが“異質”だった。
「……不老剣は、時の外にある剣。おそらく、現代の魔法でも祝福でも呪いでも、解析不能でしょう」
アステリアがぼそりと呟く。
「――君の戦いは、すでに“見届け人”の目に留まった。これは、もはや小さな争いでは済まされない」
「どういう意味だ」
「君を脅威と見なす“本隊”が、ついに動くということよ」
アステリアが左手を掲げると、空に複数の紋章が浮かぶ。
それは“聖騎士団・祝福位階”を示す紋章――
その中に、見覚えのあるものがあった。
「――あれは……!」
ロイが見たのは、かつて“街ごと灰にした”という伝説を持つ騎士団長《灰煌のレアンドル》。
「祝福階位・第一位……聖騎士団の頂点か」
エファトが、懐かしげに笑う。
「懐かしい顔だな。まだ生きてたとは」
「……あんたと知り合いかよ」
「ああ。昔、ちょっとだけ教えてやった。剣をな」
ロイとアステリアは絶句する。
その“ちょっとだけ”が、どれほどの年月を意味するのか。
今や誰にも分からない。
「ともあれ、ロイ。お前はもう、“ただの呪い使い”じゃない。俺から見ても、“面白い”と感じる存在だ」
エファトが歩み寄り、ぽんとロイの肩を叩く。
「祝福にも呪いにも染まらず、ただ己の意思で立つ者。……それが本物の“英雄”だと、俺は思うぜ」
「……へぇ。言ってくれるじゃねぇか、前時代の亡霊さんよ」
「亡霊か。うん、まぁ、間違ってはいないな」
エファトは笑い、次の瞬間、ふっと姿を消した。
まるで風がやんだように、ただ静かに。
「……去ったわね」
アステリアが、ふっと息を吐いた。
ロイは肩の力を抜く。
「――お前、まだ戦う気あるか?」
「今はやめておきましょう。彼が止めた意味、なんとなくわかったから」
空に浮かぶ“祝福紋章”の数が、さらに増えていた。
まるで空が、光で満たされるように――。
「本隊が来る。君と私が戦っている場合じゃないわね」
アステリアは空を見上げ、呟いた。
「さて、呪われし者よ。次は、共に立つ時かしら」




