祈星と赤の呪眼
空から降り立った彼女は、まるで星の女神だった。
白銀のローブに纏う光は、祝福の中でも最も高位とされる《第二祝福:祈星》。
「あなたの呪い、確かに届いた。あのゲルファリオが破られるなど……あり得ないことだった」
静かに言うその口調には、感情の揺らぎがなかった。
だが、瞳だけが違っていた。
――強い“知的好奇心”。
そして……ほんの微かな“憧れ”。
「ロイ。あなたに、ひとつだけ質問させて」
ロイは剣を背に収めたまま、彼女を正面から見据えた。
「なんだ。質問ってのは、殺し合いの前にするもんか?」
「“祝福を持たない者”が、どうしてここまで立てるのか。私はそれが知りたいの」
「そうか。なら――見せてやるよ。俺の“祝福じゃない力”をな」
次の瞬間、空気が音を立てて裂けた。
アステリアの指先が、星屑のように光る魔方陣を描く。
その光は、祝福の粒子――“星の祈り”だ。
「《星祈陣・転星光輪》」
瞬間、ロイの周囲に幾重もの光輪が出現し、全方向から圧迫してきた。
物理でも魔法でもない。これは“概念干渉”――存在そのものへの攻撃だ。
「光で消されるか、呪いで残るか。これはその天秤」
アステリアがささやく。
しかし、ロイはただ一歩踏み出した。
「甘いな」
目が――赤く、妖しく、そして禍々しく輝いた。
「《呪眼解放・赫》」
その瞬間、光輪の中にいたロイの影が“裏返った”。
影が実体化し、光を食らう。
そして、概念すら飲み込む黒の奔流となって、アステリアの祝福を侵食し始めた。
「これは……呪眼? まさか、“赤の呪眼”を制御しているの?」
「制御してねぇよ。ただ“付き合って”やってるだけだ」
ロイの口元に笑みが浮かぶ。
「俺の呪装適応――こいつはな、“適応”するんだ。目だろうが、毒だろうが、死神だろうが、全部な」
アステリアが小さく息を飲む。
「面白い……こんな存在が、この世界に生まれていたなんて」
だがそのとき――空が“割れた”。
突風が吹き抜け、空間に斬撃のような亀裂が生じる。
アステリアもロイも、一瞬、動きを止めた。
「なんだ……?」
風の向こうに、ひとりの“剣士”が立っていた。
――少年のような容姿。
だがその雰囲気は、時間そのものを逆流させるような“異質”。
「……何千年ぶりだな。こうして“濃い呪い”の匂いを嗅ぐのは」
ロイが警戒を強める中、アステリアが小さく目を見開いた。
「あなたは……不老の騎士、エファト・ストライヴ……?」
「呼ばれた覚えはないがな。勝手に足が向いた。どうやら面白い奴がいると聞いてな」
その言葉に、ロイの眉がぴくりと動く。
エファトはロイを見る。
「お前……“背負ってる”な。見えるぞ。何百、何千、いや――もっとか。呪われた者たちの想い」
「……誰だよ。お前」
「ただの“昔の人間”さ。ちょっとだけ剣を知っているだけのな」
エファトは剣を抜く。
それは、鉄でできたただの剣。装飾も、魔力も、呪いもない。
しかし、その剣が“朽ちていない”というだけで――ただの剣でないことは明白だった。
「……気にするな。こいつは“お前の敵”じゃない」
アステリアが言った。
「彼は、見届け人。私たちの間に立ち入る気はない。ただ……興味があるんでしょ」
エファトは笑う。
「面白くなりそうだったからな」
ロイは息を吐く。
「……ますますややこしくなってきたな」
空に星が瞬く。
“祈星”と“呪眼”、そして“不老剣”。
三つの異なる力が、今、交差しようとしていた。




