七つの座と最後の壁
聖騎士団本部の最奥、白金の空中庭園。
そこは一般騎士どころか、王ですら足を踏み入れられぬ、選ばれし者たちの“聖域”。
中央の円卓には、七つの席があった。
それぞれに座るは、祝福を極限まで受けた存在たち――《天上の七座》。
その中心に立つのは、第一祝福《光槍の覇王》ラヴェン・ディスカリア。
「……ロイ。貴様という存在は、やはり異物だったか」
彼は静かに立ち上がり、他の六人に視線を投げる。
「我々の“絶対秩序”を脅かす者が現れた。これはただの反逆ではない。世界構造そのものへの挑戦だ」
「賛同する」
最初に応じたのは、第六祝福《蒼氷の盾》ゲルファリオ。
「祝福の重みを知らぬ小童が、呪いで世界を染めようというのか。滑稽だな。だが、放置はできん」
「我らは“選ばれし者”……その意味を、やつに思い知らせてやる必要がある」
第五祝福《白炎の巫女》セレナが静かに頷く。
ただ一人、黙していたのは――第二祝福、《祈星の女神》だった。
アステリアは目を閉じ、ロイの名前を胸の内で呟いていた。
(……なぜ、あなたを見たとき、心が揺れたのか。私の“祝福”が揺らぐなど、今まで一度もなかったのに)
その視線を感じ取ったラヴェンが、低く問う。
「アステリア、異論は?」
「……ないわ。ただ、彼の行動には“意志”があった。それだけは確かよ」
「ふん……意志だと?」
第七祝福《金刻の翁》が鼻で笑う。
「呪われた血に意志などあるものか。あるのは怨嗟と執念だけだ。切り捨てて当然」
その言葉に、アステリアはわずかに眉をひそめたが、何も言い返さなかった。
ラヴェンは手を掲げ、空間を撫でるように指を動かす。
すると、宙に浮かび上がるのはロイの映像。
神殿の玉座に座し、世界を見据えるその瞳は、もはや“庶民”のそれではなかった。
「始めよう。世界を正す《七天の再臨》を」
◇
同時刻、ロイはユウとともに、神殿地下の“瘴気炉”を視察していた。
この炉は、呪いの力を蒸留し、純粋なエネルギーとして変換する施設。
世界中の“適応者”たちに力を送り込むための中枢でもある。
「予想以上だな……想定より、適応反応が加速度的に広がってる」
ユウの手元のデバイスが赤く点滅する。
「今や、世界人口の0.7%が“カースリンク反応”を示してる。祝福の保持者とほぼ拮抗する数字だよ」
ロイは静かに頷いた。
「……これでようやく、力の“偏り”に穴が開いたってことだな」
「でも、気をつけて。反発も同じだけ強くなる。たぶん……“あれ”が動く」
ロイはわかっていた。
“あれ”――聖騎士団の最奥。
“世界秩序”を絶対とする“七つの座”の存在を。
「正面から来ると思うか?」
「いや、まずは“試す”つもりだ。おそらく、七座の中から一人が先行してくる。ロイの力が本物かどうか、ね」
ロイは軽く笑った。
「都合のいい貴族様たちだな」
「貴族じゃない。“神”の側の人間だよ、あいつらは」
◇
数時間後。
神殿前の空間に、突然風が吹き抜けた。
空が歪む。
地平が揺れる。
時空に、裂け目が生じる。
そこから現れたのは、漆黒の騎士。
全身を鎧で覆い、巨大な剣を担ぐ男。
――第六祝福《蒼氷の盾》ゲルファリオ。
「呪われし王よ。問おう、お前の力は世界に相応しいのか?」
その一声で、空気が凍りついた。
ロイは玉座から立ち上がる。
「答える気はない。だが、証明はしてやるよ」
「ならば、問答無用だな。力で語れ、“異端”の王」




