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目覚めし者たち

――その瞬間、世界が「裏返った」。


玉座に座ったロイの意思が、時空を越えて波紋のように広がる。


祝福によって支配されていた世界の価値基準が、一瞬だけ、微かに傾いた。



「ん……?」


辺境の寒村、ユルマ谷。

地元で「呪詛の子」と忌み嫌われていた少年・カルスが、突然目を覚ました。


彼の身体に走る違和感――いや、それは「力」だった。


今までまともに歩くことすら困難だった脚が、震えている。だが、それは拒絶ではなく、力を湧き上がらせる前兆。


「オレ……何かが、変わった……?」


彼の背に、黒い瘴気のような紋様が浮かぶ。

だがその呪印は、もはや「枷」ではなかった。



同時刻。王都・リルア=セントラル。


聖騎士団の中で“最下級”とされていた少女騎士、フィーネは、祈りの間で膝を抱えていた。

「祝福を授かれなかった者」として、ずっと後ろ指をさされて生きてきた。


ふと、意識の底に、黒い光が差し込んだ。


――ロイ。


その名前を知っているわけではなかった。

ただ、どこかで誰かが「希望」を叫んでいるのが聞こえたのだ。


「……私でも、戦える?」


彼女の持つ「呪符の剣」が微かに震え、黒い光を帯びていく。



──世界のそこかしこで、“呪われし者たち”が目覚め始めていた。


その数は数千、いや、数万にも及ぶ。


彼らは今まで、価値の外にいた。

祝福を受けられず、社会の隅に追いやられていた者たち。


だが今、呪いは「適応」され、新たな力として開花し始めていた。


そして、その動きをいち早く察知した存在がいた。



「……ロイ、お前、やったな」


蒼銀の鎧をまとった一人の男が、聖騎士団本部の塔の頂に立っていた。


第一騎士《光槍》ラヴェン・ディスカリア。

聖騎士団の頂点に立つ男であり、ロイが最初に激突した“祝福の象徴”。


彼は今、空の彼方から世界を見下ろしていた。


「祝福を受けぬ者たちが、力を得始めている……?」


その目が鋭く光る。


「面白い。ならば、次は“我々”の番だ」


ラヴェンの背後に立つのは、聖騎士団最上層。

“天上の七座セブンス・ヘイロウ”と呼ばれる七人の祝福者たちだった。


彼らは祝福の本流を受けた存在。

生まれながらにして、世界の法則に愛され、絶対的な加護を得てきた者たち。


「我らの秩序が揺らぐ……というのか?」


「下民どもに力を与えるなど、断じて許されん。今すぐ潰せ」


「カースリンク……ロイという男を処理する。異端の芽は、早めに摘むに限る」


その声の中で、唯一黙していた一人の女が、そっと目を伏せた。


第二祝福《祈星の女神アステリア》――

かつて、ロイと短く言葉を交わしたあの人物だ。


(……ロイ。君は、何を引き起こした?)


彼女の目には、未来の光と闇が複雑に交差して映っていた。



神殿の玉座にて。


ロイは静かに目を閉じ、呟いた。


「これが……俺の選んだ責任か」


玉座に座った瞬間、彼は世界の“呪い”の流れを感じ取れるようになっていた。


まるで、血流のように。

まるで、地脈のように。

世界の底に沈んでいた痛みと怒りが、今、蠢いていた。


(これは……まだ、始まりにすぎない)


遠くで、ユウと白き呪獣が戻ってくる気配を感じた。


「……戻ったぞ、ロイ」


ユウの声が、わずかに疲弊している。だがその眼差しには希望が宿っていた。


「“神域”のコアを解析した。今なら、全世界に“呪装適応”の波長を広げられる」


「広げる?」


「そう。君の呪いの構造式を“標準”にして、適応可能な者へ波及させる。

……要するに、“新しい呪いの時代”を開くってことだ」


ロイは静かに頷く。


「やってくれ、ユウ」


「了解。じゃあ、始めようか。世界再構築プログラム──コード名《C.LINK:WORLD》」


神殿全体が光に包まれる。


ロイが目を閉じたとき、世界のあちこちで、数えきれない“目覚め”が始まった。



──そして、世界は変わり始める。


祝福と呪い。

神と人。

光と影。


それらすべてが、再定義される新たな時代の幕開け。


だが、それに反発する“最後の壁”もまた、動き出そうとしていた。

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