分かたれし光と闇
──白の門が開かれた。
神託の塔、最上層に隠された最後の扉。
そこは、塔の中でも誰も到達したことのない“原初の祭壇”。
ロイとユウ、そして白き呪獣がゆっくりとその前に立つ。
「ここが……」
ロイの目に映るのは、広大な神殿のような空間。
天井はなく、代わりに空のような無限の光が上から差し込み、
足元は鏡のような水面に覆われている。
まるで、世界の始まりに立ち返ったような感覚。
「気をつけろ。ここにいる“何か”は……俺たちとは格が違う」
ユウが低く警告を発する。
白き呪獣がわずかに毛を逆立てる。
そして――
「ようこそ、呪われし者たちよ」
声が響いた。
その存在は、姿を持たない。
しかし確かに“そこに在る”という感覚だけが、ロイたちを圧倒する。
「おまえが……この塔の管理者か?」
ロイが問う。返されたのは、まるで神託のように重く静かな声。
「我は“選定機構”。
世界に“秩序”と“選定”をもたらすために作られた概念。
祝福を選び、呪いを捨てることで、この世界に“価値”を与えてきた存在」
「選定……?」
ロイの眉がわずかに動く。
「そう、祝福は選ばれた者に与えられる栄誉。
呪いは、選ばれなかった者に課される“制限”であり、“不要”なる存在の証」
「だったら……てめえが、呪いを“劣等”だと決めつけてきたのかよ」
ロイの声には怒気が混じる。
「違う。
我はただ、世界の“設計図”に従って働いているにすぎない。
この塔の役割は、“選ばれし者”を見極めること。
祝福とは、そうして生まれる“価値の証明”なのだ」
「ふざけんなよ……!」
ロイが拳を握る。
「じゃあ、呪われた俺たちは何だ!
ただの不良品か!? この世界に必要ないから切り捨てられたのかよ!」
空気が、冷たく震えた。
だが声は一切揺るがない。
「必要ない。だからこそ、塔はお前を受け入れた。
“呪い”を力に変える者が現れた時、我はここでその価値を“再定義”する。
この塔の最奥で、“祝福と呪い”の座標を入れ替えることが可能だからだ」
ロイとユウが同時に息を呑む。
「再定義……だと?」
「そう。
祝福を持つ者が劣り、呪いを持つ者が価値を持つ世界へ。
だが、それには“絶対的な証明”が必要だ。
それが――“存在証明戦”」
ズンッ!!
空間が震え、地平が逆巻いた。
「来るぞ!」
ユウが叫ぶと同時に、空の光が一気に収束し、“形”を成した。
現れたのは、全身が金と白で構成された巨大な騎士。
翼のような輝きが背から広がり、顔は仮面に覆われている。
《祝福体【セラフィム・コード】》
それは、祝福の象徴そのもの。
祝福の騎士団ですら、到達することのできない“祝福の具現”。
「これが……“祝福の神核”……!」
ユウが呟く。白き呪獣が低く唸った。
《存在証明戦、開始──祝福か、呪いか。
この戦いの勝者が、“世界にとって必要な価値”となる》
ロイの手が震えた。
だがそれは、恐怖ではない。
(……ようやく、たどり着いた)
呪われた日。
祝福の授与式で名前すら呼ばれず、失望の視線を浴びたあの日から、ずっとこの瞬間を夢見ていた。
「ロイ!」
ユウが叫ぶ。ロイは応じるように、深く息を吸い込んだ。
「カースリンク──開放!」
ロイの身体を無数の呪いが走る。
限界突破した負のステータスが、逆算的に物理法則を歪め、“反逆の力”として転化される。
《セラフィム・コード》が動く。
光の剣が天を裂き、斬撃が一直線にロイへ。
「“負荷変換”──ッ!!」
ロイの周囲に出現した呪印が、斬撃の力を吸収し、瞬時に質量と運動エネルギーに置換、真逆のベクトルで放出。
ドオオォォン!
衝突する力と力。
だが押されない。押し返されもしない。
それは、対等な戦い。
「ロイ! お前は俺の先へ行け!
ここは俺と、白き獣が止める!」
ユウが叫ぶ。
白き呪獣が咆哮し、セラフィムの足元に喰らいつく。
「ユウ!」
「大丈夫だ。お前は“呪いを価値に変えた者”だろ?
なら……お前が、世界を塗り替えてくれ!」
ロイは頷き、奥へと走る。
鏡のような水面が道を示す。
その先にあるのは――
“神の座”だ。
◇
次回――
第三章 第十五話『神の椅子に座る者』
世界の価値基準を変える闘いが始まる。
祝福とは、呪いとは、何なのか。
すべての真実が、いま語られる。




