罪なき者たち、呪われし血脈
勝利の代償は、静かだった。
王国直属の特等騎士アストレイアとの戦闘から一夜。
ロイたち《黒の楔》は、王都の地下深く――かつて地下水路として使われていた廃区画に拠点を構えていた。
「……王都中が騒がしくなってる」
リゼが簡易モニタを操作しながら呟く。
転移術による偵察映像では、路地裏で“呪いを持つ”という理由で拘束・拷問を受けている庶民の姿が映っていた。
「“ロイ・クロードに共鳴した”というだけでこれか」
彼女の声には、怒りではなく、静かな諦観のようなものが混じっていた。
ロイは沈黙したまま、画面を見つめていた。
「……俺が勝ったせいで、呪い持ちが追い詰められてるってことか?」
「違う。火を灯したのはあんたでも、燃え広がったのは……もともと“そうなるだけの薪”が積まれてたってことよ」
リゼは画面を閉じて、ロイを見た。
「何も変わってないの。むしろ、これからよ」
ロイは拳を握る。
自分が「勝った」ことで、変わると信じていた。だが現実は、“異端”をより強く叩く反動だった。
その夜。
拠点の一角に、一人の少女が現れた。
「ロイ・クロードを……ロイを、ここに……!」
荒れた服装。手足に傷。
だがその瞳は、まっすぐにロイを求めていた。
「……誰だ、お前?」
「わ、私……リリィ。リリィ・クロードっていうの……!」
その名前に、ロイは思わず息を呑んだ。
「クロード……?」
「そう……私、お父さんの記録も、母さんの遺品も、全部見たの。ロイは、私のお兄ちゃん――!」
ロイの記憶の奥にあった、わずかな面影が重なった。
確かに、十年前。自分には妹がいた。だが呪いが発覚し、一族から追放されてからというもの、消息は完全に断たれていたはずだった。
「お前……生きてたのか……」
「うん……でも、隠れて生きてたの。私の体、もう“普通の人間”じゃない。
生まれたときから呪われてるの。呪装を通さずとも、“世界から拒絶される”体質……」
「そんなの……」
「ねぇロイ。私、力が欲しい。あの人たちみたいに“祝福を持たない”だけで、村を焼かれて、逃げてきて……!」
リリィの小さな手が、ロイの手を握った。
「だから、お願い。私にも、“呪いの力”を……!」
その場にいた全員が、固唾を呑む。
ロイはしばらく黙っていた。
そして、静かに、妹の額に手を添えた。
「分かった。だが……」
彼の目は、すでに“覚悟”を宿していた。
「この道は、祝福に戻ることはできない。呪いは、生きるための力であると同時に、死すら侵す毒だ」
「それでも、歩くっていうなら──お前も、《黒の楔》の一員だ」
リゼが隣で微笑む。
「ようこそ。リリィ・クロード。呪いの血は、もう“家系”として根を張り始めてるのかもね」
その夜、ロイは一人、拠点の奥で静かに座っていた。
「リリィ……お前まで、この戦いに巻き込むことになるとはな」
そして思い出す。
“クロード家”という名にまつわる封印された記録。
それはただの没落貴族の血ではなかった。
彼自身の“呪装適応”すら、実は先天的な“異端の因子”によるものである――という事実。
《封印記録・クロード家禁断因子:解放準備中》
《次なるステージ:呪いの血脈、王家との因縁へ》




