天と地の断層
剣戟が、空を割った。
ロイの呪剣と、アグナスの祝剣。
その一撃は物理的な斬撃を超えて、空間ごと裂けるような衝撃を生む。
「ッ……っは……!」
アグナスが軽く後退する。
彼の神聖な光の防御が、ロイの放つ“負の圧”に徐々に削り取られていた。
「まさか……ここまでの呪気を……」
「こっちはな、ずっと“マイナス”しかなかったんだ。
祝福の騎士団みてえに、訓練された剣もなけりゃ、戦術の指南もねえ」
ロイは息を吐きながら、ゆっくりと前進する。
「けど……呪いは、俺にだけ味方してくれた。
誰からも期待されず、蔑まれ、腐ったような人生の底で。
この“呪装適応”ってスキルだけが、俺を見捨てなかった」
呪気が全身に螺旋のように巻きつき、まるで闇の鎧のようにロイを包む。
「……ならば、君が呪いを選び、呪いに選ばれた者であるのなら――」
アグナスは再び剣を構えた。
「私は祝福の騎士として、君の“道”を試す。
もし、君の呪いが“正しき力”ならば――私の剣など通らないはずだ」
「やってみろよ」
二人が再び、激突する。
今度は、衝突と同時に空間が反転した。
上と下が逆転し、時すら歪んで見えるような次元の崩壊。
ロイの「負の力」が時空そのものに影響を及ぼし始めていた。
「これは……呪いの到達点……“世界の裏側”……!」
アグナスの足元が崩れ、次元の断層に呑まれていく。
だが、彼は剣を手放さなかった。
「ロイ……! 君は確かに力を得た。
だが、それを“誰のために”振るうつもりだ?」
「そんなもん決まってんだろ。
俺を踏みにじってきた連中と――“祝福”という仕組みそのものを、ぶち壊すためだ!」
「復讐か」
「……違ぇよ。俺は、“平等な世界”を作りたいだけだ」
ロイの目に一瞬、迷いが差したその瞬間――
アグナスが一歩、踏み込んだ。
「その“平等”の先に、誰かが泣くかもしれない。
それでも、進むのか?」
「……ああ、進む。
呪いが選んだのが、俺なら――」
ロイは剣を振り下ろした。
「呪われたまま、世界を変えてやる!」
断層が爆ぜ、白と黒が交錯する。
――次の瞬間、アグナスの剣が折れ、彼の体が膝をついた。
「……見事だ。
君は……祝福の聖域に届いた。呪いという刃で、ね」
ロイの剣先は止まっていた。
「なぜ止める?」
「アンタを殺しても、“仕組み”は変わらねえ」
ロイは背を向けた。
「それに――俺の旅はまだ終わってねえ」
アグナスは微笑む。
「……その旅の果てで、“呪い”が本当に誰かを救えるか。私は見てみたい」
そして、ロイは次なる階層へと足を踏み出した。




