神の器 vs 呪いの適応者
王都フィルグラード・中央広場は、戦場と化していた。
黒き影――呪装結社《黒の楔》。
金の光――王国直属・特等執行官アストレイア・リュミエール。
中央で向かい合うのは、ロイとアストレイア。
呪いを纏う者と、祝福を授かりし者。両者の気配がぶつかり、周囲の空気がひび割れる。
「あなたが……呪いの革命を宣言した者か」
アストレイアの声は静かで、美しかった。
だが、その奥には硬質な意志があった。
「ロイ・クロード。あなたの存在は、世界の秩序を乱す異物。
祝福なき者が力を得て、王都を踏みにじるなど――赦されるべきことではない」
「そうか」
ロイは片手で呪装具の腕鎧を鳴らす。
黒紫に染まった金属の表面が、ゆっくりと脈動していた。
「だが、面白いな。秩序ってのは、お前ら“祝福階級”が都合よく押し付けた幻想だろ」
「祝福は“神の選定”です。あなたには、それが理解できないのですか?」
「理解してるさ。だから壊すんだ」
ロイの足元から、黒い呪煙が渦を巻いた。
その中心には――“マイナス999”の表示。
通常なら即死級のデバフ、だがそれを受けてなお立つのが、ロイのスキル《呪装適応》だ。
「呪いは力だ。マイナスが極まれば、世界の理すらひっくり返る。
それが俺の答えだ。お前らがどれだけ祝福を積もうが……」
「呪いがそれを“凌駕する”とでも?」
「──いいや、“喰らい尽くす”」
《戦闘開始:ロイ vs アストレイア》
アストレイアが剣を構える。
光が収束し、天義の刃が巨大な大剣へと変貌する。
「──《天律の裁き》」
その一閃。
街の結界すら断ち切る威力が、ロイの目前に迫る。
ロイは躱さない。
いや、“受ける”。
《被ダメージ:9999(致死)……》
《呪装反応──マイナス閾値突破》
《スキル発動:深淵適応(デッドリンク・フェイズ2)》
→「ダメージをステータスに反転適応:攻撃力+9999、防御力+9999、スピード+9999」
「な──っ!?」
アストレイアの目が見開かれる。
ロイはその刃を、受けたままに笑う。
「“喰らって”からが、俺のターンだ」
漆黒の拳が、次の瞬間、空を裂いた。
アストレイアが後退する。剣で受け止めたにもかかわらず、その衝撃だけで石畳が砕け、建物が吹き飛んだ。
「この力……本当に、呪いから……?」
アストレイアの瞳が揺れる。
初めてだった。
祝福の頂点に立つ自分が、“力負け”した感覚を味わったのは。
「まだ分からないか」
ロイがゆっくりと前進する。
その後ろには、リゼをはじめ《黒の楔》の仲間たちが控えている。
「祝福なんざ、与えられたもんだろ」
「だが呪いは違う。拒絶され、捨てられてもなお、生きようとする者が“奪い取る力”だ」
「お前たちに、わかるはずがねえよ。“生きる価値すらない”って言われた側の気持ちなんてな」
ロイの拳が、再び唸りを上げた。
《呪装技:虚滅連鎖拳》
──「呪いの数値を連鎖させ、対象の“祝福”そのものを削る」
アストレイアの装備が軋む。
祝福値が減衰し、刃が鈍る。
「……これは、“神”に対する――冒涜……!」
「だったら、“神”を連れてこい」
ロイが笑った。
「その時は、神ごと呪ってやる」
《戦闘中断──王国防衛結界 再構築信号確認》
《特等執行官、後退指令発令──》
アストレイアは静かに剣を引いた。
まだ、完全に敗れたわけではない。
だが、彼女は初めて“撤退”という選択を受け入れた。
「……あなたは危険です、ロイ・クロード。世界が変わる前兆だと、肌で感じる」
「もう変わってるさ。気づけよ、お前らも。
神の選別でしか価値を決められない時代なんざ──もう終わったんだよ」
アストレイアが転移術式で姿を消す。
その瞬間、王都の広場には沈黙が訪れた。
勝者は、一人。
呪装適応者・ロイ。
彼は、王都の中心にて“神の器”を退けた、最初の“祝福なき者”となった。
「罪なき者たち、呪われし血脈」
ロイの勝利は、新たな波紋を呼ぶ。
王都では“呪いを持つ者”への迫害が激化し始め、《黒の楔》は次なる行動を迫られる。
その中で現れるのは――“ロイの血”にまつわる、ある少女の存在。




