神託の塔と祝福王子
王都。
その中央、空を貫くようにそびえ立つ巨大な塔――《神託の塔》。
祝福の源とされるその塔は、地上と天界を繋ぐ“神の通路”と伝えられていた。
だが今、ロイの前に立ちはだかる“最大の障壁”でもある。
◇
ロイは王都の地下でレジスタンス《夜焔》の一員として動き始めていた。
「この塔の構造図……ざっと見ただけでも階層が十以上ある」
「その最上階に、祝福王子ヴィゼルがいるんだな?」
ロイの問いに、リィド・ガラムは頷いた。
「だが気をつけろ。神託の塔には“選別された者”しか入れない。
祝福を持たない者は、最下層で排除される仕組みだ」
「その選別ってのは?」
「神意判定。塔の入口で、神性反応を測定する儀式だ。……もちろん、呪い持ちは弾かれる」
「なるほど」
ロイは口元をゆがめて笑う。
「なら、“呪いを誤魔化す”んじゃなくて――“祝福と見なさせる”ようにしてやればいい」
◇
そのために、ロイは《夜焔》の協力で特殊な装備を作り上げた。
それは、呪い装備の外殻を一時的に“祝福装備風”に偽装する外装甲冑《偽祝の装》。
外見は純白の聖衣。しかし中身は、“精神を蝕む呪い装備の塊”だ。
「祝福を模した呪いか……また無茶をするな、君は」
リィドが苦笑する。
「……俺はずっと、呪いなんて“足枷”だと思ってた。
でも違った。呪いは“本質”だ。力の、真実だ」
そう語るロイの瞳には、かつての迷いはなかった。
呪いは呪いとして受け入れる。
その上で、祝福の制度を壊す。それがロイの意思だった。
◇
翌日。
神託の塔、第一層《選別の門》。
「次の者、進め」
銀白の装束を着た神官が呼ぶ。
ロイはゆっくりと前に出る。
(ここが、神性判定か)
祝福を持たぬ者は、この場で処刑される。
塔の内部には“神性の眼”が常駐し、虚偽の祝福も検知するという。
だが――ロイの装備には“カースリンク”がある。
呪いと魂を結びつけ、あらゆる効果を“逆転”させる最凶の適応スキル。
祝福の感知を“反転”すれば――“呪い”は“祝福”として検知される。
《……神性判定:結果、問題なし》
「通過を許可する」
神官は淡々と告げた。
(よし……入れた)
ロイは祝福者たちに紛れて、神託の塔へと足を踏み入れる。
◇
一方その頃――神託の塔の最上層。
そこには、ひとりの青年がいた。
白金の髪。蒼き瞳。精緻な装飾が施された衣を纏い、
王座のような“浮遊する玉座”に座している。
その名は――
「ヴィゼル・セレストリア。祝福の代行者」
彼こそ、神託の塔の主。
すべての祝福を“操作する権限”を持つ、祝福王子だった。
「……来たか、“呪われし者”」
彼の前には、塔が感知した“異常な呪い波動”の報告書が浮かんでいた。
「この波動……あれと似ているな」
彼が言う「あれ」とは、かつて神に仇なした《呪詛王》の残滓。
人類史上、ただ一人神を殺しかけた存在だ。
「愉快だ。ならば試してみよう」
ヴィゼルは指を鳴らす。
瞬間、塔の深部から“異形の兵”が目を覚ました。
――【神代兵・カースバニッシャー】
呪いに適応する者を無条件で拒絶し、存在ごと“浄化”するために作られた究極兵装。
「異端には、異端の刃を」
「さあ、歓迎の準備をしようか。“呪いの勇者”よ」
◇
一方ロイは、塔の第二層《試練の殿》へと足を踏み入れていた。
そこには、彼の“存在を否定するような力”が渦巻いていた。
「これは……」
響き渡るのは、浄化と祝福の波動。
目の前に現れたのは――人ならざる存在。
それは、祝福に“呪いの否定”を刻み込まれた最初の神代兵だった。
『対象:カースリンク所持者。抹消を開始します』
黒い甲冑に黄金の紋が輝く。
両手に装備された双剣からは、呪いを消し去る絶対反応が放たれていた。
「面白え……俺に“相性最悪”ってわけか」
ロイは笑う。
だが、その瞳に恐れはなかった。
(……俺はもう、呪いを否定しない。受け入れた上で超えてみせる)
「上等だ、化け物。……“祝福の偽神”どもに伝えろ」
「呪いは、もう――恐れる力じゃねえ」
ロイは、“呪いと共にある者”として、最悪の敵へと挑む。
第三章、熾烈な戦いの火蓋が切って落とされた。




