最終進化《呪装・奈落(ヘルリンク)
――地鳴りが、止まない。
呪いと祝福の激突は、もはや「戦闘」と呼べる領域を超えていた。
それは世界法則をねじ曲げる、“存在の衝突”。
「……何が、“庶民”だ」
ルドヴィクが言った。
「貴様が背負っているのは、呪いなどという枠で語れるものではない。“世界そのものの否定”だ」
ロイは血を流しながら、それでも立っていた。
両腕は砕け、骨は軋み、心臓の鼓動さえ限界に近い。
それでも、笑った。
「……なら、俺にとっちゃ褒め言葉だな」
その瞬間、ロイの背後に異形の影が立ち上がる。
まるで巨大な棘に覆われた“奈落の獣”。
【呪装適応:最終進化段階】
《呪装・奈落》、発動。
「こいつは俺の呪いの極地。祝福じゃ絶対に到達できねえ、“マイナスのカンスト”だ!」
“奈落”は、ロイ自身の魔力、体力、精神、あらゆる“限界”を突破する代償に、相手の祝福をひとつ選び“完全無効化”する。
「まずは、お前の《聖印》を……もらう」
ズ……ッ、と空間がゆがみ、ルドヴィクの背後で輝いていた聖印が――砕けた。
「っ……がはッ!」
その瞬間、ルドヴィクの身体が激しく揺れる。
聖印はただの力ではない。
それは、“神の意志そのもの”。
それが消えるということは――祝福を得た者の“存在意義”すら否定される、ということ。
「認めぬ……! 俺たちは選ばれた者……神に選ばれた、民の光だぞ……!」
「うるせえよ。そんなのは、生まれで選ばれるお前らだけのものだった。
だったら、俺が“否定”する。すべての祝福を」
ロイが構える。
剣の形状はもはや原形をとどめていない。
黒い液体のようなものが凝固した“奈落剣”。
「喰らえ――呪装技、奈落断絶!」
一閃。
それは、祝福を“無”に帰す断罪の刃。
ルドヴィクの全身を貫いた瞬間、聖騎士団最強と謳われた男の装備が、粉塵となって崩壊する。
「これで終わりだ……!」
ロイが叫ぶ。
ルドヴィクは、地面に膝をついた。
「貴様……本当に……呪いの力だけで……ここまで……」
「違うな」
ロイは静かに言い返した。
「呪いだけじゃねえ。
俺には、“諦めがなかった”。
祝福を持たず、庶民として踏みにじられて、それでもなお、抗う理由があった」
「それが、俺をここまで連れてきた。呪いはその“手段”に過ぎねぇ」
ルドヴィクは、静かに目を閉じた。
「……そうか。ならばせめて……この敗北を、神に伝えよう。
選ばれし者の慢心こそが、神意を鈍らせた――と」
そして彼は、意識を失った。
◇
――戦いが終わった。
呪装適応の終息と共に、ロイの体から力が抜ける。
「はっ……限界ってのは……ここからだな……」
ロイはその場に、崩れるように座り込んだ。
仲間たちが駆け寄ってくる。
「ロイッ! すごい、すごいよ、あなた……本当に……」
「よかった、無事で……!」
ロイは、微笑みながら天を仰いだ。
空は晴れていた。
――この日、“祝福こそが絶対”という世界の価値観が、ひとつ、崩れた。




