神意と呪いの交差点
風が止まる。
音が凍る。
ただ、二人の間に“殺意”だけが吹き抜けていた。
聖印を三つ宿す神印騎士ルドヴィク。
対するは、呪いを極めた青年――ロイ・フレイ。
その周囲を取り巻く仲間たちは誰一人、手を出すことができなかった。
理由は単純だ。“動けない”。
ルドヴィクが発する“聖域”の力は、呪装適応のロイ以外を完全に無力化していた。
「来い。呪われし者よ」
ルドヴィクの銀剣が空を裂く。
地形ごと抉る一閃――まさに“理”を無視した力。
ロイは、躱さなかった。
“受けた”のだ。
呪装【絶壊障壁】――自身のステータスをすべてマイナス方向に極限まで振り切り、“物理的存在としての耐久”すら否定する。
結果、剣撃はロイの体を通り抜けた。
「……通らねえな」
「何?」ルドヴィクの眉がわずかに動く。
「お前の剣は“物理判定”が存在しない。だが、俺の防御は“存在そのものを削ってる”」
「“実体のない攻撃”には、“実体を限界まで希薄化させた身体”で対抗できる――って理屈だ」
ルドヴィクは、静かに剣を納めた。
その仕草に、場の空気が変わる。
「ならば次は……速度だ」
一歩。
それだけで、ルドヴィクの姿が消えた。
――いや、“見えなくなった”。
【神速の祝福】の真骨頂。
思考すら追いつかない次元の速度。
ロイの体が、一瞬で六つの斬撃を受けていた。
「ぐっ……!」
血が噴き出す。
それでも、ロイは倒れない。
「まだだ……っ」
ロイの手に、黒い剣が現れる。
呪装武器【贖罪刀・エレボス】――
すべてのマイナスステータスを刃に変換し、“対祝福”に特化した一撃を放つ呪剣。
「喰らえ――!」
瞬間、ロイの剣が時間を裂いた。
【呪界解放:虚刻の一閃】
“負の蓄積”によって、一秒だけ“祝福”を停止させる。
その一秒間、ルドヴィクの“神速”も“聖域”も、完全に遮断された。
「この一秒で――終わらせる!」
ロイの一撃が、ルドヴィクの胸元へ到達した、その瞬間。
カン――!!
金属音。
斬撃は――止められた。
「……嘘だろ……」
ロイが息を呑む。
そこに現れたのは、もう一人の男。
ボロボロの外套を纏い、長剣を一本、軽く肩に担いでいる。
見かけは、十八歳程度の少年。
だが――その剣から溢れる威圧感は、千年を超える実戦経験そのものだった。
「お前さん……誰だ……?」
ロイがそう呟くと、少年は笑った。
「通りすがりの旅剣士だよ。名前は――エファト・ストライヴ」
◇
次の瞬間、世界が裏返る。
エファトの剣が振るわれた。
その一撃は、ルドヴィクの祝福結界をすべて切断した。
「……祝福? 懐かしい言葉だ」
「神の加護がどうした。おれはただ――剣を極めただけだ」
“極めた”という言葉の重さが、全員に伝わる。
ロイも、ルドヴィクも、一歩も動けない。
視界すら追いつけなかった。
「……おれは消える。あとは任せる」
エファトは、まるで風のように、その場を後にした。
その背中に、誰も言葉をかけられなかった。
◇
数秒後。
「……貴様、今の男は……」
ルドヴィクが、動揺を押し殺しながら問いかける。
「知らん。でも、一つわかったことがある」
ロイは剣を構え直す。
「世界には、お前も、俺も、到底届かない奴がいるってことだ」
それでも――戦う。
「それでも、俺はここで止まれない。俺の呪いで、お前を打ち砕く」
ルドヴィクの聖印が再び光を灯し、
ロイの呪装がさらに黒く染まる。
そして、第二幕の激突が始まった。




