神印騎士ルドヴィク、降臨
――王国歴2143年、第三月・十二日。
それは後に、“第二の審判日”と記録されることになる。
聖騎士団の総本山。
王都バルティアの中心、大聖堂前にて、銀色の装甲をまとった男が立った。
その名は――ルドヴィク・バルグレア。
三つの聖印をその身に宿す、神印騎士。
人類最強の“祝福受領者”の一人にして、王直属の戦力だった。
「ロイ・フレイ。呪いを操る者。祝福への叛逆者。ならば、神の剣として我は汝を刈り取ろう」
彼の宣言とともに、周囲の空気が震えた。
彼の聖印はそれぞれ――
【神速の祝福】:動作加速と反応の極限強化
【破城の祝福】:あらゆる防壁を“無視”して攻撃を通す
【聖域の祝福】:周囲30m以内の味方に完全耐性を与える防護結界
それはまさに、「一人で戦場を完結させる」ための神の設計だった。
◇
同時刻、グレイストーンの地下空間。
ロイたちは緊急会議を開いていた。
すでに複数の前哨基地が襲撃され、王都からの聖騎士団本隊が南下しているという情報がもたらされていた。
「三日以内に、こっちに来る。……しかも、ルドヴィクって奴が来る」
情報を運んできたのは、アスフィル本人だった。
「俺の任は、終わった。……負けた以上、処分される立場だが、それでも、言いたいことがある」
ロイは静かに、彼を見つめる。
「なぜ……お前がこっちに?」
「……あんたを倒せなかったことに、少しだけ、悔いがある」
アスフィルはそう呟くと、地面に剣を突き立てる。
「奴は、次元が違うぞ。俺はまだ、“人間”の限界を少し超えただけだった。だがルドヴィクは――」
「“神の意志を代行している”と、本気で信じている男だ」
その言葉に、部屋中が静まり返る。
「……戦うさ」ロイは言う。
「俺は、祝福が選ばれなかった。呪いしか与えられなかった。でも、それが不当だとは思わない。ただ――」
「それで“人を切り捨てる仕組み”が正しいとは、どうしても思えないんだ」
彼の言葉は、炎のようだった。
静かだが、決して揺るがない芯を持つ熱。
「行くぞ。迎え撃つ」
ロイは、呪装を纏い始めた。
その肌に黒き呪印が浮かび、身体から“負の瘴気”が溢れ出す。
◇
三日後――
廃都グレイストーン。
その門前に現れたのは、わずか一人の騎士だった。
「ルドヴィク……まさか、単騎で来るとは……」
仲間のリューガが驚愕の声を漏らす。
「違う」ロイが答える。
「アイツは一人で“軍隊”だからだ」
その瞬間、空気が変わった。
ルドヴィクが剣を抜く。
銀の剣――聖遺物《神の戒律》。
それが地面をわずかにこすった瞬間――
爆音。
一瞬で、街の門が蒸発した。
「……無視、か」ロイが歯を食いしばる。
「“破城の祝福”。攻撃に“物理判定”が存在しない。つまり、どんな防壁も、装甲も、関係ない……!」
呪装で固めた盾すら、“意味を持たない”攻撃。
しかも――
「接近して反撃すれば、“神速”で即死か……」
とてつもない。
これまでの祝福持ちとは、明確に“格”が違う。
それでも、ロイは一歩前に出る。
「やれるさ。俺の呪いは、“マイナスの極限”を突破した。相手の祝福がどれだけ強くても、理を逆転すれば――」
「貫ける!」
《呪装適応》・全開。
ロイの全身に、黒の紋が走る。
“自己破壊”を代償に、“限界”の再定義を行う、呪いの最終形態。
ルドヴィクが、初めて剣を構えた。
「その身に宿すは、神意に背く業火――ならば、私はそれを“裁き”と呼ぶだけだ」
激突の瞬間は、すぐそこだった。




