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動き出す聖騎士団、本格侵攻

王都・聖騎士団本部――


天井の高い玉座の間。

そこに響いたのは、深く、重々しい金属音。

地面に跪いたのは、蒼の騎士、アスフィル・グリード。

彼はその蒼剣を折れたまま献上し、頭を垂れた。


「……敗北しました。呪装適応者ロイ・フレイ――想定以上の戦力です」


「……ほう」

玉座の影に座す老人が、静かに目を細める。


「祝福を“凌駕した”というのか」


「はい。呪いによる自己強化と、装備の適応、それに加えて……“限界を自ら引き上げる”術を持っていました」


「限界を……自ら?」


騎士団幹部たちの間にざわめきが走る。

人間が生まれながらに与えられる“限界域”は、祝福により引き上げられることはあっても、自力で破るなど理論上ありえなかった。


「呪いの力で、ステータスが“マイナス限界”まで引き下げられた結果……限界の概念すら変質している可能性が高い」


アスフィルの声は冷静だ。敗北を恥じていない。

むしろ彼は、実力を認めていた。


「……興味深いな」

玉座の主が立ち上がる。

その姿を見て、騎士団幹部たちが静かに背を正した。


現れたのは、金の聖印を額に刻む男。

王直属、十騎士団を統べる頂点にして、“三聖印持ち”の一人――


「《神印騎士》、ルドヴィク・バルグレア」


「……君に行ってもらおう。次は“本気”で、ロイ・フレイを排除する」


ルドヴィクは淡々と頷き、静かに踵を返す。


「神の意志に背く者は、早いうちに狩らねばなりませんからね」



数日後。

辺境領・廃都グレイストーンの一角。


ロイは戦後の整理に追われていた。

アスフィルとの死闘の代償は大きく、身体のあちこちに呪いが残留している。

その調整と呪装の再構築に、数日を要していた。


「……それでも、“祝福を破った”のは大きな一歩だな」

ロイは呟き、手の甲に浮かぶ呪印を見下ろす。


それは彼が“呪装適応カースリンク”を完全に制御し始めた証でもあった。


「なあロイ。今後の方針だが……」


仲間のリューガが口を開く。

傭兵時代から共にいる彼は、言葉を選びながらも続けた。


「王都が本気で動くなら、俺たちも準備が必要だ。次は、あのアスフィルよりも強い相手が来る」


「分かってる。次は……“祝福そのもの”を否定できるようにならないと、勝てない」


ロイはかすかに笑った。


「でも――面白くなってきたろ?」


「いや、お前の“面白い”は命が軽すぎる……」


そんな会話を交わす最中、遠方から来客の報が届く。


「えっと……“西方の巡礼者”だってさ。名乗りはしてないけど、武装してなくて、すげぇ若そうな男」


ロイは、ふと眉を寄せた。


(今、このタイミングで……?)



彼は一人だった。


朽ちた聖堂の廃墟に佇む姿。

見た目は十八、長身の少年。だが、その目は“永劫の深淵”を覗いたように静かだった。


「……君が、ロイ・フレイか」


「そうだが……あんた、何者だ?」


「ただの通りすがりさ」

その男――エファト・ストライヴは、そう名乗る。


「ただ、“祝福”と“呪い”の戦いが、次の段階に入る気配を感じてね。少し様子を見に来た」


ロイは警戒を解かずに睨む。


だが次の瞬間――


ズバァァァンッ!!


背後から現れた暗殺者が、エファトに飛びかかる。

神速の刺突。王都側の放った斥候だ。気配を消していたにも関わらず――


「……遅いよ」


エファトは動かない。

それでも、斥候の刃が“空中で止まっていた”。


否。止まっていない。すでに切られていた。


斥候の男の体が、二歩遅れて、音もなく崩れ落ちた。


「……ッ! 今の、何だ……!」


「気にしなくていいよ」

エファトは静かに微笑む。


「僕は“関係者”じゃない。ただ、君がこのまま歩けるかどうか、見届けに来ただけだ」


そして、彼は踵を返す。


「また困った時にでも、呼んでくれ。……それまで、死なないでくれよ、呪装の適応者」


(……なんだ、あの男は)


ロイはただ、彼の背中を黙って見送った。

その場に漂うのは、まるで剣の間合いを“永久に”漂わせたような残響だけだった。



一方、王都――


《神印騎士ルドヴィク》が、動き出していた。


「呪いの時代を終わらせましょう。祝福による秩序こそ、我が王国の柱なのですから」


次なる戦いの火蓋は、もう切られている。

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