呪いと祝福の真剣勝負
地上――月光が砕けた石畳を淡く照らす。
その中央、二人の剣士が向かい合っていた。
片や、祝福の騎士アスフィル・グリード。
片や、呪装適応者ロイ・フレイ。
「この世界では“祝福”こそが神意だと、誰もが信じている。だが――」
ロイが、ゆっくりと呪装を展開していく。全身を覆うのは黒銀の装甲。
呪われた魔力が波のように渦巻き、空気が軋む。
「神意が誰かを見捨てるなら、俺は“呪い”でそれを覆す」
「……言葉の重さは認めよう」
アスフィルが淡く微笑む。背の双剣、その片方を構えた瞬間、風が弾けた。
「だが、覚悟だけで届く領域ではない」
瞬間、アスフィルが消えた。
──違う。
ロイの直感が告げる。これは単なる高速移動ではない。
《加護加速》──時間すら歪める一種の時間干渉型祝福だ。
(来る──!)
一拍遅れて空間が割れた。蒼剣がロイの肩口を狙い、雷のように落ちてくる。
ギィィン!
ギリギリで剣を構え、受け止めた。が、その瞬間、足元にクラックが走る。
地面ごと押し砕かれる衝撃。
「……ッ、重いな」
「この剣は、“祝福が重なる”ほど重くなる。“神威剣術・崩”――試し斬りには丁度いい」
アスフィルは二撃目、三撃目を斜めから叩き込む。
だがロイは後退せず、真正面から迎撃した。
バァァァン!
剣と剣が火花を散らし、次の瞬間、アスフィルの動きがわずかに止まる。
見れば、その剣の柄に黒い染みが広がっていた。
「これは……呪い?」
「《呪装適応:拡張枷》」
ロイの声が静かに響く。
「触れた相手の装備に呪いを流し込み、“祝福を蝕む”効果を追加した。
お前の剣も、時間の加護も、もう完璧じゃない」
「……へえ」
アスフィルが楽しそうに目を細めた。
「なら、こちらも一段階上げよう」
ドンッ!
地を蹴った瞬間、周囲の空気が一気に蒼く染まる。
蒼剣の加護が限界突破状態へ移行し、“戦域”が展開される。
「《王印解放:蒼剣界》」
世界が、青い剣の領域へと変わった。
「その中で動ける者は、王直属の中でも俺だけだ」
剣が現実を裂き、時間が断絶される。
一歩踏み出すごとに、空間そのものが断ち切られていく。
ロイは身構えるが、重力すら変質するこの場で自由には動けない。
剣が伸び、すべてを凍てつくように薙ぎ払う。
だがその時――
「……ッ、ならばこちらも“限界”を越えるだけだ!」
ロイのスキルが再起動する。
「《呪装適応・限界突破》!」
全身の呪いが暴走し、ロイの体を蝕みながら力へと変換する。
装甲が軋み、内側から亀裂が走る。だが、それでも踏みとどまった。
「……呪いの出力を、“死なないギリギリ”まで調整する。それが俺の戦い方だ」
「“限界”を自分で操作する……? まさか、それほど緻密な制御ができるとはな」
「俺たちは“選ばれなかった者”だ。だからこそ、自分の限界は、自分で定義する」
ロイの黒剣が蒼い戦域を裂いた。
──その一撃は、祝福の空間すら引き裂く。
「なっ……!」
驚愕するアスフィルの蒼剣を受け止め、ロイは叫んだ。
「お前たちは“祝福”に守られてきた。でも、俺たちは“呪い”を飼い慣らしたんだ!」
「その違い、そろそろ教えてやるよ──!」
刹那。
蒼剣と呪剣がぶつかり合い、衝撃波が周囲の建造物ごと吹き飛ばす。
爆風が巻き起こり、瓦礫が雨のように降り注ぐ。
◇
戦闘終了後。
崩れた地面に、膝をつくアスフィルの姿があった。
剣は折れ、蒼剣界は既に消えている。
「……まさか、ここまでとは……」
彼の顔には敗北の苦悶ではなく、どこか清々しさすら浮かんでいた。
「祝福では届かない領域。確かに……見せてもらったよ、ロイ」
「……今度は、お前らの側から“無視される痛み”を知れ。俺たちがどれだけ地を這ってきたか」
ロイの声に、アスフィルは静かにうなずいた。
「覚えておこう。……だが、王都は次を送るぞ。俺よりも強い“聖印持ち”がな」
「上等だ。全員まとめて、俺が“呪い”で超えてやる」
二人の間に、静かな風が吹いた。




