蒼剣の騎士、アスフィル
王都から離れた空中庭園《セレスティア緑塔》。
その頂にある転移門が、青白い光を放った。
転移陣から姿を現したのは、一人の青年。
長い黒髪を後ろでまとめ、無駄のない銀装束を身にまとった彼──
その背には、左右非対称の巨大な双剣が交差するように背負われていた。
「……ここがスレイブレーンか。噂通りの亡者の街だな」
アスフィル・グリード。
王国直轄第三階位祝福者《蒼剣の印章》保持者にして、現王の私兵筆頭。
彼の瞳は冷たく、けれどどこか退屈そうだった。
「王の命令は『調査と排除』。……まあ、“どこまで遊べるか”ってところか」
彼の足元に、風のように現れた女が膝をつく。
灰色のヴェールを纏ったその女は、《王都影使》と呼ばれる諜報部の一員だった。
「報告を。標的は現在、呪装兵団を結成し、スレイブレーン地下に根を張りつつあります」
「確認された装備数、呪装装備28。適応者23名。うち3名が“適応特異型”に該当──」
「へぇ。面白くなってきたな。まるで“ゲーム”だ」
アスフィルは薄く笑い、双剣の片方──蒼く輝く大剣を背から引き抜いた。
「さあ、“祝福の意味”ってやつを教えてやるとしようか、ロイ」
◇
スレイブレーン地下、第七区画。
新設された訓練所には、呪装を装備した訓練兵たちの掛け声が響いていた。
「うっ、重い……でも……ッ!」
「うわッ、腕が勝手に震える!? これ……痛ッ、いや、違う……強くなってる!」
試作段階の呪装は、まだ制御が難しく、使用者の精神と肉体に大きな負荷をかける。
それでも、若者たちは“前に進む力”を掴みかけていた。
「呪いを道具として扱うには、“覚悟”が必要だ」
ロイは静かにそう呟く。
「だがその先にある力は、祝福の上をも越える。……俺が証明する」
◇
その夜。
スレイブレーン第七区画の地上入口──その扉が爆風で吹き飛んだ。
灰塵の中、ゆっくりと歩み出る一人の騎士。
「誰──ッ!? 侵入者ッ!?」
見張りの兵が警戒態勢を取るも、次の瞬間──彼の前に立っていた五人が、一瞬にして倒れ伏した。
「剣が……見えなかった……」
呟くように言った兵の目は、既に白目を剥いていた。
「挨拶代わりだ。名乗ろう」
アスフィルは淡々と名を告げる。
「王国直属、第三階位祝福《蒼剣の印章》保持者、アスフィル・グリード──」
「ロイ。貴様に“宣戦布告”をしに来た」
◇
その報せは、即座にロイのもとへ届いた。
「……とうとう来やがったな、王直属」
レムが険しい顔で言う。
「ヤツは強い。祝福の中でも別格だ。“無詠唱連斬”、“超速加護”──あらゆる戦場で一人軍隊と呼ばれている」
「どれくらい強いんだ?」
「前線騎士50名を、たった10秒で壊滅させたという記録がある」
「おいおい……それ、笑えないぞ」
ロイが苦笑いを浮かべながらも、眼は鋭さを増していた。
「……よし、迎え撃つ。地下には避難を」
「無謀だぞ! まだ兵団も発展途上──!」
「だからこそ、今ここで“勝つ意味”がある」
ロイはゆっくりと、《呪装適応》のスキルを展開する。
「この“呪い”が、祝福を打ち倒す未来を見せるために──!」
◇
地上にて。
ロイとアスフィル、ついに対面。
沈黙の中、互いの距離を測るように睨み合う。
「お前がロイか。見た目は……案外普通だな」
「お前がアスフィル。祝福を信じきったバカ面ってのは、やっぱり本当にあるんだな」
「……気に入った」
アスフィルがゆっくりと双剣を構えた。
「さあ、呪いと祝福。どちらが“真に世界を導く力”か、試してみよう──」
青白い光が迸る。
その瞬間、地上の戦いが始まった。




