呪装結社《黒の楔(くさび)》
空はまだ、裂けたままだった。
王都フィルグラードの中央広場。
ロイ・クロードが「革命」を宣言してから、たった数分。
それでも世界は、決定的に変わっていた。
そして、その中心に立つもう一人の人物――
「……改めて、自己紹介をするわ」
紅の瞳、闇より濃い装束。しなやかな手足に、鋭い空気を纏った少女が名乗る。
「わたしはリゼ・ノクス。呪装結社《黒の楔》所属、【呪装No.13:怨響の首輪】の適合者」
ロイの隣に立つリゼの声は、落ち着いていた。
だが、確かに街全体に響いていた。魔力でも魔法でもない、“呪いの波動”そのものが声を運んでいる。
「……“呪装結社”?」
貴族たちがざわつく。衛兵は剣を抜いたまま一歩も動けず、神殿騎士は結界の崩壊に対処するのがやっとだった。
ロイが応える。
「俺一人で王国に挑むと思っていたか? 祝福を与えられず、呪いだけを押し付けられた者たちは、確かにいた。
ただ知られていなかっただけだ。“存在しない”とされてきただけだ」
リゼが軽く指を鳴らした。
《接続開始:黒の楔・外縁メンバー群転移リンク確立》
《召喚拠点・封域06《アルドの淵》──ゲート展開》
無数の“影”が、王都の広場に降り立った。
黒いフードに、異形の呪装。
剣ではなく“牙”、杖ではなく“腕”。
祝福とは全く異なる形をした装備をまとい、呪装者たちが次々に姿を現す。
彼らは全員、王国によって記録されていない。
いや、「されなかった」者たち。祝福を得られず、捨てられた庶民や奴隷、冒険者、辺境の民――
“存在を否定された者たち”の集い。
それが、《黒の楔》だった。
「……随分と集まったな」
ロイは見渡しながら呟く。
そして、ある“記憶”を思い出す。
◇
かつて、ロイが初めて呪装具を装備し、死にかけた日。
彼を拾ったのが、リゼだった。
「呪いが怖いか? 苦しいか? 身体が裂けそうか?」
「それが“普通”だよ。……でも、あんたは死ななかった。適応した」
「それが、呪装適応者──カースリンクの証さ」
彼女は微笑んで言った。
「私たちは、そうやって生き延びてきた。選ばれなかった側で、這いずって、呪いに染まりながら」
「だからこそ、選ばれた奴らを引きずり下ろす覚悟があるのよ」
◇
──その言葉が、今、現実となっている。
王都の空が再び震える。
だがそれは呪装の力ではなかった。
「天上より通達! 王国高位執政庁より指令──“聖騎統制令”発動!」
空から降り注ぐのは、黄金の光。
そして現れたのは、白金の鎧に神翼を模した装飾。王国最高戦力。
「祝福階級・特等執行官、《アストレイア・リュミエール》、参る」
女性の聖騎士。
セルディアとは異なり、国家直属。祝福の“核”をその身に宿した、“神の器”。
彼女が手にしたのは、祝福装備No.1《天義の刃・ソルレイヴ》。
神話級に分類される、対呪装用兵器だった。
リゼが呟いた。
「やれやれ、早くも“大当たり”を引いたわね」
ロイは一歩、前に出る。
「いいさ。革命ってのは、最初の火種が一番熱いもんだ」
──呪いの軍勢 vs 国家最高騎士、王都戦線、開幕──
「神の器 vs 呪いの適応者」
国家がついに“祝福の頂点”を送り込む。
祝福装備No.1を持つアストレイアと、呪いの深淵を超えたロイの直接対決。
そして、呪装結社《黒の楔》の真の目的が明かされる――!




