祝福に見放された者たち
集会所を出た夜、ロイはスレイブレーンの高台に腰掛け、ぼんやりと崩れた王都の夜景を見つめていた。
崩壊した遺跡のようなその光景も、どこかに人の営みの残滓を感じさせる。
「……変わると思うか? この世界」
隣に立つレムに、ロイは問いかけた。
「すぐには無理だな。だが、爪痕は残る。お前の行動が、“希望”としてな」
「……だったら、俺はその希望に責任を持つさ」
ロイは軽く背伸びをし、ぼそりと呟いた。
「俺たち“祝福に見放された者たち”が、世界の形を壊してやる。呪いの力でな」
◇
翌日、ロイはレムと共に、集会所の広場に再び立っていた。
周囲には、100名近くの若者たちが集まっていた。
皆、祝福から見放され、“呪い”の可能性を信じようとする者たち。
「──昨日は言いそびれたが、俺が持ってるスキルの名前は《呪装適応》だ」
「簡単に言うと、“呪いの装備に適応するだけ”のスキル。だけどな、それが──」
「『全ステータスマイナス』という最底辺の数値を、“限界突破”させた」
「俺が今、祝福の聖騎士にだって一矢報いられるのは、この“呪いのせい”だ」
ざわつく人々。誰もが、呪いという言葉に潜む力に耳を傾けている。
「呪いは、祝福に劣るものじゃない。『扱える者がいなかった』だけだ」
「だったら俺がその“道”を作る。次に続くやつらのために」
そう言って、ロイは腰の小さな黒い箱を持ち上げた。
中には、ロイがこれまで戦いの中で回収し、改造を重ねてきた“呪装”の試作品がずらりと並んでいた。
「ここにあるのは、祝福者のために作られた装備じゃない。お前たち“呪いしか持たない者”のための装備だ」
「……ついてこれるか?」
その問いに、数人の若者が前に出た。
最初に名乗ったのは、白髪の少女だった。両目に深い影を宿している。
「私の名前はユメ。祝福の適性なし。“呪い感応体質”で、隔離されていた」
「それでも、力があるのなら──私は、使いたい。生きるために」
次に出てきたのは、獣人の少年。体に刻まれた鞭痕が痛々しい。
「オレはルア。祝福騎士の訓練生だったが、“属性不一致”で追放された」
「呪い装備、オレにくれ。力、欲しい」
次々に現れる“呪い適性者”たち。
中には、元祝福研究員、元傭兵、かつて処刑寸前だった者までいる。
ロイは一人ひとりの瞳を見つめながら、うなずいた。
「……わかった。じゃあ今日から、お前らは“俺の呪装兵団”の第一期生だ」
「不完全でもいい。不器用でもいい。……呪いしかない俺たちで、“祝福の世界”を叩き壊す」
ロイの言葉に、雷鳴のような歓声が起きた。
◇
その頃、王都上層の聖堂──
騎士団本部で、黒髪の青年が一枚の報告書に目を通していた。
「“呪装兵団”……? はは、なるほどな」
青年の名はアスフィル・グリード。
王国最年少で“第三階位祝福《蒼剣の印章》”を授かった異端の天才騎士。
その眼差しは、どこか愉しげだった。
「ロイ。お前……“面白いこと”してくれるな」
部屋の奥、巨大な双剣が静かに光を放つ。
「さて──次に、お前の前に立つのは俺かもしれないな」
◇
一方その頃、スレイブレーンではロイとレムが新たな拠点の設営を進めていた。
「まさか、こんなに集まるとはな」
「希望ってのは、何よりも強い力になるんだな……」
「だが、これは“始まり”にすぎない」
レムが真剣な表情で言う。
「今後、王国はお前の存在を明確に“脅威”と認識し始める」
「対処のために動くのは……次の階位だ。副団長よりさらに上の、王直属の祝福者たちが」
「……来るなら来いさ」
ロイは呟く。
「今の俺は、“一人じゃない”。それが何より強いって、最近気づいたんだ」
ふと、遠くで何かの爆発音が響いた。
レムが眉をひそめる。
「始まったか……小競り合いじゃない、“浄化戦”の前兆だ」
「浄化戦……?」
「祝福によって、“呪いごと街を浄化する”。──つまり、“お前のせいでここが襲われる”ってことだ」
沈黙が流れる。
だがロイの目は、鋭く輝いていた。
「だったら迎え撃つしかねぇだろ。──呪いの力で、祝福に真っ向から勝つ!」




