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不完全な祝福者(アンブレスト)

王都〈エラルディア〉の南端、地下街〈スレイブレーン〉。

そこは“祝福を授からなかった者たち”──“不完全な祝福者アンブレスト”が寄り集まって暮らす隔離区域だった。


「……聞いたか? またひとり、“失格印”が首に刻まれたってよ」


「これで今月だけで五人目だ」


「やってられねぇよな。あいつら、“選ばれなかっただけ”で人間じゃないみたいに扱ってきやがる……!」


彼らの腕や首には、淡い痣のような“刻印”が浮かんでいる。


【不適性】──祝福に選ばれなかった者が刻まれる印。


生まれによって祝福を受けられない者、受けても“失格”とされた者。

王国の支配構造において、彼らは“存在してはならない存在”だった。


「……なあ、お前。ロイって名前、聞いたことあるか?」


「ロイ……? ああ、“呪いで祝福をぶっ倒した”ってやつか?」


「そう。マジの話らしい。しかも、聖騎士団の《白紋》部隊を壊滅させたって……」


「はは、信じられねえな。呪いで祝福に勝つなんて、絵本の中の話だろ」


そう言いつつも、彼らの目には微かな光が宿っていた。


“呪い”という言葉は、彼らにとって“終わり”の象徴であり、同時に“自分たちの可能性”でもあった。


「俺たちが“間違ってた”わけじゃないのかもしれないな……」



同時刻。

王都郊外の小屋にて、ロイはレムと再会していた。


「……戻ってきたのか」


「お前の深度が“3”に近づいていると聞いたからな」


ロイは呆れたように鼻を鳴らす。


「どっからそんな情報仕入れてるんだよ」


「祝福国家の動きは、呪いの目を通せばだいたいわかる。……副団長と、接触したな?」


「……ああ。グラディウスって奴。強かった。殺気を向けられただけで背筋が凍った」


レムは短く頷く。


「彼は“完全体”。祝福の中でも最高位の称号持ち。いずれ避けられない相手だ」


「わかってるよ。だから、強くなる」


ロイの眼差しには、揺るぎない意思が宿っていた。


「なあ、レム。質問していいか」


「……なんだ」


「王都の下層で、“不完全な祝福者”ってやつらがいるって聞いた。……あいつら、助けられないのか?」


レムはわずかに目を細める。


「お前がそんなことを気にするとはな」


「俺も最初は、自分だけ生き延びればいいと思ってた。けどさ──」


「“呪いしか得られなかった俺が、他の誰かの希望になれる”なら、やってやりたい」


沈黙。


レムは口元に微笑を浮かべた。


「……なら、連れて行ってやるよ。スレイブレーンへ」



数日後。

ロイとレムは王都の地下へと潜り、〈スレイブレーン〉の奥地へたどり着いた。


そこは、まるで世界から切り捨てられた廃墟だった。


瓦礫の建物、煤けた空気、祝福の光が一切届かない闇の中。

子供や老人までもが、“刻印”を隠しながら生きていた。


「……うわ、マジか。これが“同じ国”の現実かよ」


「知らなかったか。王都の下には王都の“影”がある」


ロイは静かに頷き、壁際にうずくまる少年に近づいた。


「おい、怪我してるじゃねぇか。これ、使えよ」


差し出したのは、呪装で“自己修復機能”を持った包帯。

少年は怯えながらも、そっとそれを受け取った。


「ありがとう……お兄ちゃん……」


ロイはその言葉に、一瞬戸惑いを見せた。


「“ありがとう”なんて言われるの、久しぶりだな」


「……お前の行動が、もうこの街の空気を変えてるってことだ」


そう語るレムの目には、淡い希望の光が灯っていた。



その日の夜。


スレイブレーンの集会所にて、若者たちが静かに集まっていた。


「本当に来てくれたんですね……“呪装適応者”ロイさん」


「俺は特別な存在じゃない。たまたま生き残っただけだ。けど──」


「今ここにいるお前ら全員、“選ばれなかった”からって終わったわけじゃない」


「俺がそれを証明してみせる」


その言葉に、静かな拍手が広がる。


初めて、スレイブレーンに“希望”という名の灯がともった瞬間だった。



だが、王都の上層ではその兆しがすでに感知されていた。


「……ロイ。あの男、“下層民”を動かす気か」


玉座の奥で、宰相エルネストが渋く眉をひそめていた。


「芽は早めに摘むべきかもしれませんな」


その時、部屋に現れたのは、もう一人の“選ばれし者”。


グラディウス=レインハルド。


「いいや──まだ早い」


「芽がどこまで育つのか。見てみたいだろう?」


その瞳の奥に宿るのは、敵意ではなく、かすかな“興味”だった。

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