表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/203

聖騎士団・副団長、動く

王都〈エラルディア〉。


高位祝福の光が絶えず降り注ぐこの都は、“選ばれた者”たちの楽園だった。

中央宮殿の天上には、巨大な祝福石が浮かび、永遠の加護を降らせている。


その中心、白金の玉座の間。

剣を模した紋章の前に、ひとりの男が跪いていた。


「……副団長、これが先日の“辺境戦報”です」


淡々と報告書を読み上げる神官の声は、わずかに震えていた。


──【祝福部隊《白紋》、全滅】


──【推定原因:呪装適応者との交戦】


──【不明因子“カース・レイヤー2”を確認】


玉座の前に立つ男は、無言で書類に目を通していた。


銀色の鎧に、白の長マント。

肩章には、“七翼”を象った金装飾。


聖騎士団副団長、グラディウス=レインハルド。


「“ロイ”……という名が報告にあるな」


「はっ、呪装適応者の名前とされています……」


「……面白い」


グラディウスは、薄く笑った。


それは、敵を見下す笑みではなかった。


「“深度2”に到達した適応者か。……何十年ぶりだ?」


「六十三年ぶりかと……最後の適応者は記録では“死亡”しています」


「なら、今この国にいる“唯一の呪装適応者”が、奴ということになる」


グラディウスはゆっくりと立ち上がる。


「国は動かん。上層は“まだ”この事態を黙殺するつもりだ」


「……どうされますか、副団長」


「決まっている。私が行く」



その夜、王都の外れにある訓練場。

稽古をしていた聖騎士候補生たちが、全員一斉に地に膝をついた。


「しっ、失礼しま──副団長……!?」


「続けろ。私はただ、“剣”を取りに来ただけだ」


彼の目の前に据えられていたのは、封印された聖剣の一振り。


《聖装・レギンレイヴ》


副団長クラスにのみ許される、対“適応者”用の聖遺物。


「ロイ。お前の存在が、“均衡”を壊しつつある」


グラディウスは聖剣をゆっくりと手に取る。


「だが、私が一番興味があるのは……“お前の可能性”だ」



その頃。


ロイは辺境の廃寺で、剣を握っていた。

手にしているのは、前回レムから受け取った“量産型・不老剣”。


「……完全に馴染んだわけじゃないが、少しずつ使える範囲が広がってきた」


深度2による負荷は凄まじい。

肉体の再構築、呪因子の浸食、記憶の混濁。


だがロイは、すべてを“適応”して前に進んでいた。


「レムのやつ、結局何も言わずにいなくなりやがって……。まあいい。あいつは“そういうやつ”だ」


彼の背後に、ふと風が吹く。


気配が変わる。


「──来たか」


一歩、足音が鳴る。


振り返ったロイの前に現れたのは、堂々とした白銀の鎧の男。


グラディウス=レインハルド。

祝福国家エラルディア、第二位の実力者にして、聖騎士団副団長。


「初めまして。ロイ=カースリンク──」


「……いや、“適応者”と呼ぶべきか」


「……随分な直々の挨拶だな」


ロイは、自然と足を構えた。


眼前の男から放たれる威圧感は、これまでのどの敵とも違う。


祝福の核そのものが、歩いているかのような存在。


「今日は戦いに来たわけではない」


「じゃあ何しに来た?」


「……“確認”だ。お前が、“この国を壊せるかどうか”を」


沈黙。


風が止まり、世界が静まったかのような錯覚。


「俺は、壊す気なんてなかった。ただ、“祝福に殺されない”ように足掻いてただけだ」


「そうか」


グラディウスはゆっくりと剣を鞘に戻す。


「なら、そのまま進め。いずれ、我々は敵同士になる」


「そしてその時こそが──“すべての祝福”に対する審判の時だ」


彼はそう言い残し、再び背を向けた。


「ロイ」


「……なんだ」


「私を殺せるほどに強くなれ。でなければ、“次”は容赦せん」



グラディウスの訪問は、表向きには“存在しなかった”ことにされた。

だが、ロイは感じ取っていた。


これから起きる戦いの“重さ”を。


「聖騎士団副団長、か……。次に会ったら、命の取り合いってわけか」


ロイは、再び剣を握る。


「それでも、やるしかねぇだろ。俺の道を、選んじまったんだから」


祝福の中心が動き出した今。


“呪いの反逆者”ロイの名が、世界を揺るがす火種として、密かに広がり始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ