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量産型・不老剣、起動

「ロイ=カースリンク。貴様を、ここで消す」


銀色の鎧に身を包んだ祝福騎士たちが、空から降下する。

その数、十四名。いずれも国家直属・《白紋部隊》と呼ばれる対“異端”特化の討滅部隊だった。


「……こいつら、正規軍じゃないな。完全に殺しに来てる」


ロイは瞬時に状況を見極めた。

交渉の余地など一切ない。すでに“対象消去”の命令が下っている証拠。


「援護、できるか?」


隣のレムは、一歩も動かず、ただ呟いた。


「お前が生き延びる意思を見せるならな」


それだけを言い残し、レムは霧のように姿を消した。



「呪装適応・起動──《アビスリンク》」


ロイの全身に、呪因子が展開する。

装備しているのは、古代呪具《灰の手》と《虚無籠手》。通常の人間なら触れただけで即死するCランク呪装。


それがロイにとっては“素手”同然。


「強制反転。まずは“祝福封印”からだ」


ロイが掌を突き出すと、前方の祝福兵たちの鎧にひびが走る。

祝福の加護は、呪装適応の“反転”によって軋み、逆流を起こしていた。


「……なっ、加護が……」


「なぜだ、精度が……崩れる……っ!」


その隙をついて、ロイは一気に飛び込んだ。

霧の中を踊るように駆け、虚無籠手の拳が、重装兵の胸板をぶち抜く。


「一人目──」


背後に気配。


すかさず反転ステップ、《呪跳カースステップ》で位置を入れ替える。

本来は“加速”に使う呪式を、ロイは“座標反転”に応用していた。


──そして、斬撃が走る。


「……!」


一人の兵が、気づけば頭から血を吹いて倒れていた。


「……やったの、俺じゃねえよな?」


霧が晴れた先。

そこにいたのは、再び姿を現したレム。

手には、朽ちないはずの“量産型・不老剣”。


「一応言っとくが、お前がやられそうな時だけ出る。俺は教師でも相棒でもねえ」


「……そっちのほうが助かる。自由にやらせてもらう」


ロイは呟く。


「こいつら、単なる兵士じゃない。……“剥奪者”が混ざってる」


「ほう、気づいたか」


“剥奪者”。

呪いを強制的に“断ち切る”祝福機構の一種。呪装を根本から無効化する技術であり、国家上層部の一部しか扱えないもの。


「呪装適応持ちじゃなけりゃ、触れた瞬間に全スキルごと消される」


「逆に言えば、適応者のお前が“一度でも”それに負ければ、因子ごと消されるってことだ」


ロイは笑った。


「燃えるじゃん?」



戦場は混迷を極めた。


ロイの反転呪装と、レムの不老剣による一撃離脱。

祝福兵たちは地の利も加護もあるはずだったが、それらが次々と“逆流”し、形勢が崩れていく。


「……! 後列部隊、転移結界準備! 全域沈静化攻撃を!」


その時――


レムが、短く言った。


「“見せろ”。使えるなら──見せてみろ、量産型の可能性を」


ロイの前に、不老剣が放り出される。


朽ちないはずの、だが“本物ではない”鉄の剣。


「使えたらどうなるんだ?」


「その剣は“本体ではない”が、不老因子の外殻を模倣してる。つまり、適応者なら一時的に“本体の一部”を引き出せる」


ロイは剣を握る。


──瞬間、左腕に鋭い痛みが走る。


(……ッ、焼ける……っ!?)


だが、ロイは手を離さなかった。

むしろその呪因子の侵食を、“逆流”させた。


「呪装適応──深度開放《カース・レイヤー2》!」


剣が応えた。


「……マジか」


レムが、心底驚いた顔をする。


量産型・不老剣の“模倣核”が目を覚ましたのだ。


本来、完全適応者でなければ引き出せないはずの力。


それをロイは、呪装の“反転”によって、無理矢理自分の深度に馴染ませた。


「来いよ、祝福野郎ども。今度はこっちが、“特権”見せてやる」


ロイが突き出す剣が、無数の反転因子を帯びて煌めく。


祝福の光を喰らい、呪いの闇に染まりながら。


その刃は、かつて誰も踏み込めなかった“呪いと祝福の狭間”に立ち入った。



そして戦いが終わった時――


辺境の谷は、灰色に染まり。

空は重く、赤く染まっていた。


倒れた祝福部隊。破壊された戦術機構。


ロイは、剣を握りしめたまま、荒い呼吸を繰り返していた。


「まだ、深度2が限界……か」


その背に、レムが歩み寄る。


「だが“見えた”だろう、ロイ。“その先”が」


「……ああ。“深度3”──この先に、もっと異常な力がある」


ロイの呪装適応は、まだ完成していない。


この“反転の剣”は、その“片鱗”に過ぎなかった。


「……俺は、進むよ。レム」


「勝手にしろ。だが忘れるな。“俺たちの呪い”は、祝福を越えるための――」


レムの言葉は、風にかき消された。


彼の姿はもう、そこにはなかった。


ただ、不老剣の欠片だけが、ロイの手に残されていた。



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