量産型・不老剣、起動
「ロイ=カースリンク。貴様を、ここで消す」
銀色の鎧に身を包んだ祝福騎士たちが、空から降下する。
その数、十四名。いずれも国家直属・《白紋部隊》と呼ばれる対“異端”特化の討滅部隊だった。
「……こいつら、正規軍じゃないな。完全に殺しに来てる」
ロイは瞬時に状況を見極めた。
交渉の余地など一切ない。すでに“対象消去”の命令が下っている証拠。
「援護、できるか?」
隣のレムは、一歩も動かず、ただ呟いた。
「お前が生き延びる意思を見せるならな」
それだけを言い残し、レムは霧のように姿を消した。
◇
「呪装適応・起動──《アビスリンク》」
ロイの全身に、呪因子が展開する。
装備しているのは、古代呪具《灰の手》と《虚無籠手》。通常の人間なら触れただけで即死するCランク呪装。
それがロイにとっては“素手”同然。
「強制反転。まずは“祝福封印”からだ」
ロイが掌を突き出すと、前方の祝福兵たちの鎧にひびが走る。
祝福の加護は、呪装適応の“反転”によって軋み、逆流を起こしていた。
「……なっ、加護が……」
「なぜだ、精度が……崩れる……っ!」
その隙をついて、ロイは一気に飛び込んだ。
霧の中を踊るように駆け、虚無籠手の拳が、重装兵の胸板をぶち抜く。
「一人目──」
背後に気配。
すかさず反転ステップ、《呪跳》で位置を入れ替える。
本来は“加速”に使う呪式を、ロイは“座標反転”に応用していた。
──そして、斬撃が走る。
「……!」
一人の兵が、気づけば頭から血を吹いて倒れていた。
「……やったの、俺じゃねえよな?」
霧が晴れた先。
そこにいたのは、再び姿を現したレム。
手には、朽ちないはずの“量産型・不老剣”。
「一応言っとくが、お前がやられそうな時だけ出る。俺は教師でも相棒でもねえ」
「……そっちのほうが助かる。自由にやらせてもらう」
ロイは呟く。
「こいつら、単なる兵士じゃない。……“剥奪者”が混ざってる」
「ほう、気づいたか」
“剥奪者”。
呪いを強制的に“断ち切る”祝福機構の一種。呪装を根本から無効化する技術であり、国家上層部の一部しか扱えないもの。
「呪装適応持ちじゃなけりゃ、触れた瞬間に全スキルごと消される」
「逆に言えば、適応者のお前が“一度でも”それに負ければ、因子ごと消されるってことだ」
ロイは笑った。
「燃えるじゃん?」
◇
戦場は混迷を極めた。
ロイの反転呪装と、レムの不老剣による一撃離脱。
祝福兵たちは地の利も加護もあるはずだったが、それらが次々と“逆流”し、形勢が崩れていく。
「……! 後列部隊、転移結界準備! 全域沈静化攻撃を!」
その時――
レムが、短く言った。
「“見せろ”。使えるなら──見せてみろ、量産型の可能性を」
ロイの前に、不老剣が放り出される。
朽ちないはずの、だが“本物ではない”鉄の剣。
「使えたらどうなるんだ?」
「その剣は“本体ではない”が、不老因子の外殻を模倣してる。つまり、適応者なら一時的に“本体の一部”を引き出せる」
ロイは剣を握る。
──瞬間、左腕に鋭い痛みが走る。
(……ッ、焼ける……っ!?)
だが、ロイは手を離さなかった。
むしろその呪因子の侵食を、“逆流”させた。
「呪装適応──深度開放《カース・レイヤー2》!」
剣が応えた。
「……マジか」
レムが、心底驚いた顔をする。
量産型・不老剣の“模倣核”が目を覚ましたのだ。
本来、完全適応者でなければ引き出せないはずの力。
それをロイは、呪装の“反転”によって、無理矢理自分の深度に馴染ませた。
「来いよ、祝福野郎ども。今度はこっちが、“特権”見せてやる」
ロイが突き出す剣が、無数の反転因子を帯びて煌めく。
祝福の光を喰らい、呪いの闇に染まりながら。
その刃は、かつて誰も踏み込めなかった“呪いと祝福の狭間”に立ち入った。
◇
そして戦いが終わった時――
辺境の谷は、灰色に染まり。
空は重く、赤く染まっていた。
倒れた祝福部隊。破壊された戦術機構。
ロイは、剣を握りしめたまま、荒い呼吸を繰り返していた。
「まだ、深度2が限界……か」
その背に、レムが歩み寄る。
「だが“見えた”だろう、ロイ。“その先”が」
「……ああ。“深度3”──この先に、もっと異常な力がある」
ロイの呪装適応は、まだ完成していない。
この“反転の剣”は、その“片鱗”に過ぎなかった。
「……俺は、進むよ。レム」
「勝手にしろ。だが忘れるな。“俺たちの呪い”は、祝福を越えるための――」
レムの言葉は、風にかき消された。
彼の姿はもう、そこにはなかった。
ただ、不老剣の欠片だけが、ロイの手に残されていた。




