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祝福議会、非常招集

その建物は、王都の中心――“天上区”にそびえていた。


外壁は純白の神石、屋根は七色の祝福膜に覆われ、空そのものと融合するかのように輝いている。


《聖政連盟・祝福中央議会》。

いわばこの国の“脳”であり、“祝福制度”を統括する中枢機関。


その議会に、異例の鐘が響いた。


「非常招集――議会コード、緊急階位【白翼】。理由:呪装適応の限界突破による国家秩序への直接的脅威」


議長のアナウンスとともに、各国から集められた十二の代表が次々に席へと着く。


そのすべてが、祝福の最高位【三律以上】を受けた者たち。

政治、軍事、宗教、民衆統制――あらゆる権限が、ここに集まっていた。


中央には、すでに一人の男が立っていた。

ヴァルト・ディ=セラフィム。先日、呪界深度七で“呪装適応者”と交戦した張本人だ。


「……それでは、報告を」


議長の静かな言葉に、ヴァルトはうなずく。


「呪装適応者――名をロイ。祝福未取得の庶民出身。因子適応レベル、深度七。確認された呪界因子は《アビスリンク》」


「アビスリンク……? あの因子は第二呪災以降、封印されたはずでは?」


「正確には“封印不能”です。あれは自然発生因子ですから」


「では……新たな“災い”の芽が、庶民層に現れたと?」


「否。すでに“災い”そのものです。私は彼と交戦しましたが、単独で騎士団一個中隊を殲滅可能な戦闘力を確認。聖剣の因子反応を以てしても、彼の呪装は解除できなかった」


議会にざわめきが走る。


「これは……呪いが再び、“祝福に対抗する意志”を持ち始めた兆候では?」


「しかし、そのような動きは過去にも……」


「だが、呪装適応者は今まで全員“適応死”していた。ロイは初めて、“生き延びた”んだ」


議長が重く口を開く。


「……対処案を提示します。対象ロイに対し、“聖都認定呪因指定者”として、殲滅許可を発行。軍部・聖騎士団に対し、最大出力での戦闘を許可します」


議場の空気が一変する。

それはすなわち、国家ぐるみでの殺害命令。


「……本当に“殺す”のですか? 祝福を持たぬ者が、ただ力を得たというだけで?」


声を上げたのは、若き宗務院代表の女性――セリーナ・フラウ。


「私たちがなすべきは、選ばれなかった者の“祈り”を汲み取ることなのでは?」


「綺麗事だ」


吐き捨てたのは、軍部代表のゼイン将軍。

その全身は機械化されており、祝福と技術の融合体でもある。


「力ある呪いは、それだけで秩序を崩す。君が情けをかけることで、次の都市が吹き飛んでも責任は取れるのか?」


「ですが……!」


ヴァルトが、静かに手を挙げる。


「私は、“選ばれた世界”を守ると誓いました。だが……同時に、あの少年がただの“破壊者”とは思えなかった」


「……団長?」


「呪いには、かつて私が感じたものと同じ――“祈りのかけら”が宿っている。あれは、復讐でも支配でもない。ただ、“拒絶”なんだ。今の、この世界への」


議場が沈黙した。


祝福を受ける者たちの静寂。それは、図星を突かれた者たちの沈黙だった。


「いずれにせよ、事態は切迫しています」


議長が結論を下す。


「ロイ――呪装適応者への殲滅作戦を決行。だが、同時に“生け捕り”のルートも確保。因子を解析し、“祝福への代替技術”として利用可能かの検証を行う」


「……なるほど。つまり、“敵”として殺し、“資源”として解体すると」


セリーナの皮肉に、議長は無表情で答えた。


「これが、“祝福を受ける”ということです」


……


その夜。

議会の記録が秘匿される一方で、王都の地下では一つの命令が下されていた。


《コードF3・アビス潰滅指令》。

内容:呪装適応者ロイの居場所を特定次第、速やかに処理せよ。対象は捕獲・排除、いずれも可。


祝福の世界が、ついに牙を剥く。


そして、どこか遠く。

呪装適応の因子を持つ“もう一人”の人物が、その気配を感じ取っていた。


「……ロイ。お前、またでかい波を起こしたな」


その男の名は、レム・カースリンク。

ロイと同じ、呪いに適応した“最初の失敗体”だった――。

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