呪装vs祝剣
呪界深度七――《骸の荒原》。
そこは、生者が踏み入れるにはあまりに静かで、あまりに死に満ちた世界だった。
黒く焼けた地。
突き刺さったままの朽ちた剣。
風も吹かず、空もない。
「ここが……“終わりの地”ってわけか」
ロイは、アビスリンクを背負って立っていた。
先の戦いで因子の同調率が跳ね上がり、彼の呪装適応は**深度七の“共鳴域”**に達している。
呪いが空気のように身体に馴染むこの地では、ロイのステータスは常時“カンストマイナス”。
だがその分、**反転現象**もまた常時発動している。
彼は今、この世界で“最も呪われた存在”であり、同時に――最強だった。
そのとき、空間が光を裂いた。
「……来たか」
瞬間、轟音とともに光柱が降り注ぐ。
そして、その中心から一人の男が現れる。
白銀の甲冑。七つの浮遊紋章。
手にした聖剣は、触れるものすべてを“浄化”する祝福の化身。
聖騎士団長――ヴァルト・ディ=セラフィム。
「……ロイ・カースリンク。君を“抑制対象”と認定する」
静かに、だが絶対的な圧が込められた宣言。
ロイは口元だけで笑った。
「来ると思ってたよ。“選ばれた世界”のお偉いさんが」
「呪いは本来、管理下に置かれるべきだ。君のような者が自由に扱えば、またあの災厄が繰り返される」
「俺はあんたが言うような“災い”じゃねえよ。ただ――この力を、無視されたくなかっただけだ」
「それを“災い”と言うのだ。祝福とは違い、呪いは個の欲望を肥大化させる。君の言葉こそ、それを証明している」
剣を抜く音が響いた。
ヴァルトの背後には、光の翼が顕現する。
それは、七つの祝福因子が形成する“光装状態”。
対して、ロイの背後には黒煙が渦を巻く。
アビスリンクの呪因子が脈動し、呪装を強制的に最適化する。
(……いくぞ)
互いに、一切の合図もなく。
瞬間、両者が地を蹴った。
「――“祝剣・第一律《断罪の閃》”!」
「――“呪装適応・応答式《骸喰の斬域》”!」
光と闇が、激突した。
斬撃が交錯するたび、空間がきしむ。
祝福の力は秩序を維持しようと世界を安定化させ、
呪いの力はそれを破壊し、混沌の中に自己の在り方を刻みつける。
だが、互いの力量は拮抗していた。
(……すげぇ。こいつ、“剣”で因子を制御してる。俺と同じ……いや、それ以上の……)
ロイの頬に、初めて血が滲む。
だがそれを拭いながら、唇がかすかに笑みを浮かべた。
「なあ、団長さん。あんた、昔……呪いを救ったことあるだろ」
「…………」
「俺、あんたの剣からそれを感じた。祝福だけの剣じゃねえ。“止めてくれ”って声を、一度は受け止めたことのある奴の剣だ」
ヴァルトの目が、わずかに揺れた。
「だとしても。今の私は、選ばれた世界を守る者として立っている。それが、“祝福を受けた者”の責任だ」
「なら、俺は“選ばれなかった者”の怒りをぶつけるだけだ!」
ロイが叫ぶと同時に、呪装が暴走を始める。
ステータス・マイナス限界値突破。
呪界因子、《超深度応答域》に侵入。
「――“呪装適応・終極式”!」
全身を包む呪因子が実体化し、黒い鎧となってロイを包む。
目には赤い紋章。手には“呪いの化身”とも言える巨大な刃。
対するヴァルトもまた、祝福の最大出力を解放する。
「――“七柱律印・全開放《セラフィム・コードΩ》”!」
光と闇の極点が、再び交差した。
その一撃は、世界そのものを揺るがすかのような衝撃を生んだ――。
…………
爆心の中、崩れ落ちた地に二人の影が立っていた。
息を切らすロイ。
微かに膝をつくヴァルト。
「……やるな。君は、確かに……“呪いを扱う資格”があるかもしれん」
「……あんたも、“祝福に潰されてねえ”って意味じゃ……ちょっとだけ、見直した」
短く、静かな沈黙。
だがその先に、互いに斬り合う未来しかないことも、理解していた。
「……だが次は、容赦はしない」
「俺もさ。次は……あんたの世界を、本気でぶっ壊しに行くからな」
こうして――“祝福”と“呪い”の激突は、決定的な段階へと突入していく。




