聖騎士団長、動く
白銀の聖殿の最奥。
大理石の床を、重厚な足音が響く。
「……深度七で、“呪装適応”が発生した?」
報告を受けた瞬間、その男は立ち上がった。
聖騎士団長――ヴァルト・ディ=セラフィム。
かつて“七柱の祝福”をすべて受けた、最上級の祝福者。
現代において、単独で国家すら転覆できると言われる、究極の対呪兵。
「応答した呪界因子の名は《アビスリンク》。確認された使用者は、“ロイ”という少年」
「……ロイ。庶民か」
その言葉に、騎士たちは顔をこわばらせた。
「すでに第三騎士団、第五騎士団が交戦し、全滅に近い損害を――」
「ならば、こちらが動く理由ができたな」
ヴァルトのマントが、音もなく揺れる。
その背中には、**聖剣“ヴェル=セラフィウス”**が鎮座していた。
七つの祝福から打たれた、“光の因子結晶体”――
「呪いは、所詮“管理されてこそ”意味を成す。あれは、放置すれば世界に害をなす毒素となる」
「ですが団長。呪装適応は、本来祝福を持たぬ者だけが発現する異質な因子です。もはや“秩序”の枠外に――」
「だからこそ、私が行く」
声は静かだが、言葉には一切の揺らぎがない。
「この手で“呪い”を正す。それが、“選ばれた者”の使命だ」
静寂の中、騎士たちが次々と跪く。
「ヴァルト様、どうか我らにもその使命を――!」
「お前たちはここを守れ。私は“呪いの深淵”に、一人で降りる」
誰もが息を呑んだ。
団長ヴァルトが動くということ。
それは、呪いの脅威がもはや“国難”に等しいと認定された証。
ヴァルトはそっと目を閉じる。
彼の中で、過去の記憶がよみがえっていた。
――呪いの因子が暴走し、都市一つを消した大災害。
――その時、彼は祝福の力で数万の命を守った。
だがその時、確かに感じた。
呪いには、祝福とは違う“感情”がある。
恐怖。怒り。悲鳴。
そして――祈り。
「ロイ。呪いの底で、お前が何を見たかは知らぬ。だが……」
静かに、聖剣を抜いた。
それはまばゆい黄金の刃。
祝福の因子が凝縮された光の剣。
「――私は、“選ばれた世界”を壊させはしない」
その瞬間、光が天を突き、空を裂く。
聖騎士団長、ヴァルト・ディ=セラフィム。
呪界深度七、出撃。
祝福と呪いが、ついに正面から激突する。




