適応者狩り
朝日が昇る。
だが、ロイの瞳にはその光が眩しくなかった。
あの仮面の男――《因果外れ(アウトレイヤー)》を名乗った謎の存在は、まるで“この世界の成れの果て”を知っているかのようだった。
(あいつ……何者だ? 再適応者って……どういう意味だ?)
ロイは教会跡から出ると、すでに辺境自治区の警戒網が展開されているのを見た。
隊長らしき男が住民たちに怒鳴り散らしていた。
「“適応者”は町に入れるな! 今の時代、誰が暴走するか分からんのだ!」
「でも、うちの娘は……呪装なんてしてません! 念のためってだけで……!」
「言い訳は聞かん!《適応者狩り》の命令は中央からだ!」
その言葉に、ロイは足を止めた。
(適応者狩り……?)
彼が歩み寄ろうとした瞬間、少女の悲鳴が響いた。
「お母さんっ! 離してっ、やだぁっ!!」
兵士が一人の少女を引きずっていく。
腕にはうっすらと、呪紋のようなものが浮かんでいた。
(これは……呪装の“前兆”か?)
ロイは腰の呪装《黒の反転》を構える。
周囲に警戒網が敷かれる中、彼の姿に気づいた兵士が青ざめた。
「て、てて……適応者、ロイ……っ! “カースリンク”だッ!!」
「下がれッ! 発砲準備っ――!」
次の瞬間、ロイは地を蹴った。
目にも止まらぬ速さで兵士の腕をつかみ、ねじる。
「やめろ。彼女はまだ“適応”してない。判定も出ていない子供だ」
「で、でも……命令で……!」
ロイの目が鋭く光る。
「じゃあ、その命令を下したやつに伝えろ。
“適応者狩り”なんてやったら、今度は俺が、お前らを狩るぞってな」
兵士たちは後退した。
ロイは少女の拘束具を外し、震える手でその頭を撫でた。
「怖かったな。でも、大丈夫だ。……適応するってのは、罪じゃない」
少女の目が、少しだけ安堵に濡れた。
だが――その様子を、遠くから見つめる視線があった。
丘の上。
白銀の鎧に身を包んだ青年が、ロイを見下ろしていた。
「やはり……貴様が世界を混沌に導いた元凶だな、“呪装適応者”ロイ」
かつての聖騎士団――その残党。
そして、“祝福”の力を人工的に再現しようとする者たちの一人。
名は――ネク・フレイド。
その夜・中央区某所
「適応者は増えすぎた。制御不能だ。……なら、どうする?」
仮面の男、《メア》は黒の祭壇の前に立っていた。
「“選別”を再び始める。だが今度は、祝福ではない。
――“因果”そのものを、選び直す」
闇が、静かに広がり始めていた。




