第二部 英雄、廃すべし
世界は、変わった。
祝福も、呪いも、神の選別も消えた。
だが、人々は――それでも、なお“新たな神”を求めた。
それが、ロイだった。
「英雄様のおなーりだ!」
子どもたちが走る。兵士が整列する。
歓声と祝福(かつてのそれに似た言葉)が、ロイを包んだ。
だが、ロイの表情は曇っていた。
彼の腰には、かつて世界を崩壊させた呪装《黒の反転》
その表面に、奇妙なノイズのようなひび割れが走っていた。
「……また適応率が低下してるな」
ロイはつぶやく。
祝福なき世界では、呪装適応が主流になりつつある。
それは“自由”と引き換えに、“暴走”と“死”を孕むものでもあった。
この街でも――
《報告:第四自治区にて、適応暴走が発生。死者十二名》
「またか……」
彼はすぐに現場へ向かう。
そこにいたのは、全身を黒い呪紋に覆われた男の死体。
そして――その男の弟と思しき、震える少年。
「……兄ちゃん……なんで、なんで英雄の真似なんか……っ!」
ロイは言葉を失う。
「“適応者”は希望だって言ったじゃないか……っ!
お前のせいで……兄ちゃんは、英雄になろうとして死んだんだ!」
ロイの胸に、鋭い釘のような痛みが走った。
「――英雄なんかじゃねぇ」
吐き捨てるように言ったその声は、どこか震えていた。
深夜。廃教会にて
ロイは瓦礫の中で、呪装を点検していた。
異常な挙動、適応反応の乱れ。
この呪装は、“何か”に共鳴していた。
そのとき。
「お前は、もう“英雄”ではない」
その声が、闇から届く。
姿を現したのは、仮面をつけた黒衣の男。
「誰だ」
「名乗るほどの者ではない。だが、世界はお前をこう呼ぶだろう。
《因果外れ(アウトレイヤー)》──かつて世界に適応しなかった存在」
ロイの目が鋭くなる。
「その呪装、お前も……適応者か?」
「否。《再適応者》だ」
「……再?」
男は仮面の奥で笑った気配を見せる。
「この世界はまだ、“選別”の呪いの中にある。
祝福の構造は壊した。だが今、人々は“お前”を新たな神に選んだ。
それがどれほど危ういことか……貴様は、わかっていない」
ロイはゆっくりと立ち上がった。
「神なんて……もうゴメンだ。
だから俺は、“英雄”すら打ち捨てる。
もう一度、やり直すんだ。“適応”の意味を、な」
「ならば、証明してもらおうか――ロイ・カースリンク」
その言葉と共に、男が手を振る。
黒の風が吹き抜け、ロイの呪装が反応した。
《警告:因果適応率 低下──再調整モードへ移行》
《外因子との同調反応:開始》
ロイの瞳に宿るのは、かつての“反逆者”の意志。
「なら――やってやるさ。世界に本当の自由を見せてやる!」
夜明け前の空の下、第二章の戦いが始まった。




