狼の章 第一話 祝福の国で、最も祝福されていないもの
獣人国家・王都。
祝福の塔を中心に、
金と光が溢れている。
だがその影で、
民は俯いていた。
「……税、また上がるらしい」
「祝福維持費だとさ」
「ありがたい話だ」
――誰も、
本気でそう思っていない。
◆
王城・回廊。
第二王子ヒポスは、
一人のメイドに声をかけていた。
「……大丈夫ですか」
メイドは、
一瞬怯え――
それから慌てて頭を下げる。
「も、問題ありません!」
ヒポスは、
小さく首を振った。
「無理は、
問題です」
そう言って、
水を差し出す。
「ありがとう」
名を呼ぶ。
「ミレア」
メイドの目が、
大きく見開かれる。
「……覚えて、
くださっていたんですか」
ヒポス
「ええ」
「あなたは、
昨日も遅くまで働いていました」
それだけ。
だが――
その光景を、
王座の間から見ている者がいた。
◆
獣王レオンハルト。
黄金の鬣を持つ、
威厳そのものの王。
その隣に、
第一王子レオニスが立つ。
レオンハルトは、
静かに言った。
「……見たか」
レオニス
「……はい」
レオンハルト
「今のが、
王家の血だ」
ヒポスを呼ぶ。
「来い」
◆
謁見室。
レオンハルトは、
怒鳴らない。
ただ、
事実を告げる声。
「なぜ、
使用人に礼を言った」
ヒポス
「彼女が、
疲れていたので」
一瞬の沈黙。
そして、
王は笑った。
「それが、
欠陥だ」
ヒポス
「……何が、でしょうか」
レオンハルト
「祝福だ」
「祝福を受けた者が、
受けぬ者に心を配る必要があるか?」
玉座から立ち上がる。
「祝福とは、
選別だ」
「選ばれた者が、
選ばれなかった者を使うためのものだ」
そして――
冷たく、断じる。
「お前はな」
「ゴミに情を向ける」
「だから祝福が寄り付かない」
「欠陥品だ」
◆
ヒポスは、
言い返さない。
だが、
目を逸らさない。
「……それでも」
静かに。
「民は、
生きています」
レオンハルト
「だから愚かだ」
レオニスは、
そのやり取りを見つめていた。
剣では勝てない。
人望でも敵わない。
(……祝福がなければ、
俺は……)
その思考を、
祝福の光で塗り潰す。
◆
王城の外。
ロイは、
その一部始終を聞いていた。
腰には、
新しい刀。
名は――
豊久。
(……なるほどな)
(祝福の国で、
一番王してるのが、
呪い持ちか)
刀が、
微かに鳴る。
まるで――
「面白ぇ」とでも言うように。
ロイは、
歩き出した。
この国で。




