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閑話 殿は、刀となる
戦場は、もう遠かった。
霧の向こうで、
銃声も、叫びも、消えている。
島津豊久は、
地に倒れながら――
それでも剣を離していなかった。
(……殿は、果たした)
それだけで、
十分だった。
だが。
次の瞬間、
死は来なかった。
意識が、
引き戻される。
「……おい」
聞き覚えのある声。
ぶっきらぼうで、
だが不思議と落ち着く声。
目を開くと、
そこは戦場ではなかった。
灰色の世界。
その中心に、
一人の男が立っている。
「……ロイ、か」
ロイは、
肩をすくめた。
「よう、殿」
「勝手に死ぬな」
豊久は、
小さく笑った。
「無茶言うな」
◆
ロイは、
豊久の剣を拾い上げる。
刃は欠け、
血に濡れ、
それでも――
立っていた剣。
「……いい剣だな」
豊久
「俺のだ」
ロイ
「知ってる」
一拍。
「だから――」
ロイは、
剣を前に差し出す。
「置いてけ」
豊久は、
黙った。
(……なるほどな)
(殿は、
まだ終わっちゃいねぇ)
◆
豊久は、
剣に手を伸ばす。
いや――
自分が、剣になる。
意識が、
鋼へと溶けていく。
名が、
刃に刻まれる。
――豊久。
「……使え」
「立てねぇ奴の代わりに、
立つ剣だ」
ロイは、
真顔で受け取った。
「……重ぇな」
豊久
「背負え」
「殿だろ」
ロイ
「……ああ」
◆
次の瞬間。
世界が、
切り替わる。




