新章・第二十七話 灰王、六割
宝玉は、
静かだった。
光を放つわけでもなく、
力を主張するでもない。
ただ――
そこに在る。
ロイは、
それを手のひらに乗せ、
ゆっくりと息を吐いた。
「……じゃあ、やるか」
誰に言うでもなく。
◆
宝玉に、
指先が触れた瞬間。
――カチリ。
歯車が噛み合うような、
感覚。
頭の奥で、
何かが“戻る”。
(……ああ)
(これだ)
ロイは、
目を閉じた。
剣の握り。
踏み込みの角度。
重心移動。
思い出すのではない。
最初から知っていたものが、戻る。
立ち上がる。
剣を取る。
振る。
――ズン。
地面が、
浅く割れた。
「……はは」
ロイは、
笑った。
「剣は……
戻ったな」
だが。
胸に手を当てる。
威圧は、出ない。
祝福への抵抗も、弱い。
分かる。
これは――
六割。
「……なるほど」
「全部じゃねぇ」
宝玉は、
もう光っていない。
役目は、
そこまでだと言わんばかりに。
◆
アークが、
慎重に距離を詰めてくる。
「……どうですか」
ロイ
「剣は戻った」
「だが――」
肩をすくめる。
「まだ、
“灰王”じゃねぇ」
アークは、
一瞬だけ目を伏せ――
それから頷いた。
「……それで、いい」
ロイ
「?」
アーク
「今までが、
異常すぎました」
「世界が、
追いついていなかった」
ロイは、
苦笑する。
「言われてみりゃな」
◆
アークは、
地図を広げた。
指差す先。
そこは――
人の国ではない。
「……ここです」
「獣人国家」
ロイの眉が、
わずかに動く。
「……狼か」
アーク
「はい」
「そして――」
一拍。
「狼の権能が、
そこにあります」
ロイの目が、
細くなる。
◆
アークは、
珍しく強い口調で言った。
「ロイ」
「獣人は……
正直、ヤバい」
ロイ
「祝福持ちか?」
アーク
「……人間以上に」
「獣人は、
祝福を誇りとして受け入れた種族です」
「拒まない。
疑わない。
疑問すら持たない」
言葉を選びながら、
続ける。
「結果――」
「祝福に最も近づき、
最も歪んだ存在になった」
ロイ
「……獣人化、か」
アーク
「ええ」
「もはや理性より、
祝福が判断する個体もいます」
ロイは、
静かに剣を見た。
六割の力。
威圧なし。
抵抗なし。
(……ギリギリだな)
◆
ロイは、
剣を肩に担ぐ。
「……いいじゃねぇか」
アーク
「ロイ?」
ロイ
「原点回帰だ」
「祝福が正義面してる相手と、
殴り合う」
口元が、
歪む。
「一番、
俺の物語らしい」
アークは、
一瞬だけ不安そうに――
それから、笑った。
「……灰王連合、
動きますか」
ロイ
「ああ」
「ただし――」
剣を、
軽く叩く。
「今回は、
無双じゃねぇ」
「噛みついて、
削って、
倒す」
目が、
獣を睨む目になる。
「狼なら……
なおさらだ」
◆
遠く。
獣人国家の方角で、
咆哮が上がる。
祝福に満ちた、
獣の声。
それを聞きながら、
ロイは思う。
(……六割で、
どこまでやれるか)
(試してやる)
灰王は、
完全ではない。
だが――
剣は戻った。
そして次の敵は、
人ですらない。
祝福を信仰し、
祝福に選ばれ、
祝福に喰われた者たち。
――祝福 vs 灰。
物語は、
再び原点へと戻る。




