偽りの神と、祝福の牢獄
――《大呪核》第二断章:最深層。
「目覚めろ、リリィ! お前はそんな……作られた化け物なんかじゃない!」
ロイの叫びに応じるように、空間が波打つ。
その中心に立つのは、白銀の衣に包まれた少女──否、《融合体 λ(ラムダ)》。
「リリィはもういない。
祝福と呪い、その二極を内包する“進化の完全体”。
私こそが、この世界を正しく再構築する“新たな神”となる」
ラムダの瞳は冷たく、しかしどこか痛々しかった。
その背中には、“祝福の天輪”と“呪いの棘”の両方が浮かんでいる。
《スキル発動:双極律式・因果分離》
《効果:自他のバフ/デバフ効果を反転可能》
ロイの呪装が、逆に“自傷”へと作用し始める。
「くっ……! 自分の呪いが、自分を殺すだと!?」
「呪いが強くなりすぎたんだよ、ロイ。
本来なら、適応できるはずがないレベルまで──
お前は、呪いを超えて、“神域”に踏み込んでる」
だがロイは──笑った。
「上等だ」
《呪装適応・深層第二形態》
《デバフ吸収──条件解除》
【-99999】 → 【∞(インフィニティ)化】
ラムダのスキルを“逆吸収”し、ロイの呪いは再び極限を超える。
背後に現れるのは、黒き獣神──呪いの意志そのもの。
「呪いの極みは、もはや神聖をも喰らう。
祝福ごと、お前を取り戻すッ!」
ロイの一撃がラムダに突き刺さる。
だが、ラムダの内部で“もう一つの声”が響いた。
「……お兄ちゃん、私……まだ、ここにいるよ」
リリィの意識──まだ完全に飲み込まれていなかった。
ラムダの身体が震える。
「なぜ……なぜ私の中の“原初”が揺らぐ!?
私は、人の希望の先。選別を超えた存在のはず……!」
その時、空間に“第三の存在”が出現する。
──巨大な歯車のような輪郭を持つ“光の塊”。
『祝福選別装置《Ω》、現界完了。
感知対象:適応者ロイ、および融合個体ラムダ。
警告:祝福体系の崩壊を感知。プロトコルΩ-0を起動』
「……お前が、“神の正体”か」
ロイが睨みつけるその存在は、人でも魔でもない。
『我は、リヴィウスの意志を継ぎし“自動選別装置”にして、
祝福を管理・分配する機構。感情を持たぬ、純粋な理性の神。
全ての祝福は、私が選び、与え、裁く』
Ωの声は機械のように無機質。
だがその言葉は、重く冷たく、無慈悲だった。
『選ばれぬ者は、“世界のために”排除される。
ロイ・クロード、お前は“選外”。
よって、破棄対象に指定──』
「ふざけるなァ!!」
ロイが叫ぶ。
「誰が“選ばれなきゃいけない”なんて決めた!
誰が“神の枠”に入らなきゃ生きていけねぇって言った!?」
「俺は呪われた庶民だ!
祝福を受けられず、見下され、捨てられた人間だ!
でも──その呪いで、お前ら祝福の支配をぶっ壊すッ!」
Ωの光が強く脈打ち、空間が割れる。
『──反逆認定。第三断章への強制移行を開始』
次なる記憶の階層が開かれる。
だがその前に──リリィの身体が崩れ、ロイの腕の中に倒れ込んだ。
「リリィ……!」
「……お兄ちゃん、ありがと。
私……あの中に取り込まれて……消えるところだった……」
ラムダの意識は、いったん沈黙した。
だが、その内部にはまだ“再起動フラグ”が残っている。
リリィは静かに言う。
「まだ……終わってないよ。Ωは“断章”の深層に、自分の本体を隠してる。
そこに……全ての祝福の制御中枢があるの……」
ロイはゆっくりと立ち上がる。
「じゃあ──次で終わらせよう。
この世界の“選別支配”も、“祝福の嘘”も……すべてな」




