新章・第二十六話 宝玉は、託された
ナオマサの身体が、
完全に崩れ落ちた後。
森には、
不自然なほどの静寂が残っていた。
トヨヒサは、
剣を収め、
ゆっくりと周囲を見回す。
「……まだ、終わってねぇな」
その足元。
赤い鎧が消えた場所に、
一つの光が残っていた。
拳ほどの大きさ。
透き通った宝玉。
だが、
中で何かが蠢いている。
剣でも、
呪いでもない。
意志の残骸。
トヨヒサは、
それを拾い上げた。
「……これが、
剣の眷属の“芯”か」
触れた瞬間――
胸の奥が、
僅かに熱を帯びる。
(……ロイ向けだな)
理由は、分からない。
だが、
渡す相手は分かる。
◆
数日後。
灰王連合の仮設拠点。
ロイは、
相変わらず剣を取れずにいた。
立てる。
歩ける。
だが、
力を込めると――
世界が遠のく。
「……不便だな」
そんな呟きに、
影が差す。
「文句言えるだけ、
元気じゃねぇか」
ロイが顔を上げる。
「……あ?」
そこに立っていたのは、
見知らぬ男だった。
だが――
剣の立ち方だけで分かる。
「……ああ」
ロイは、
小さく笑った。
「お前か」
トヨヒサは、
宝玉を放り投げる。
「受け取れ」
ロイは、
反射的に掴み――
息を呑んだ。
「……これ……」
トヨヒサ
「剣の眷属の残り滓だ」
「直接触れるな」
「お前じゃなきゃ、
扱えねぇ」
ロイは、
宝玉を見つめる。
そこには、
**祝福でも呪いでもない“割れ目”**があった。
「……なるほど」
「俺の弱体化……
これが絡んでんな」
トヨヒサ
「だろうな」
◆
ロイは、
視線を上げた。
「……で?」
「お前は、
これ渡しに来ただけか」
トヨヒサは、
肩をすくめる。
「役目は、
それで終わりだ」
「殿はな」
ロイ
「……行くのか」
トヨヒサ
「ああ」
宝玉が、
淡く光る。
空間が、
軋み始める。
「……俺は、
ここに長居する男じゃねぇ」
「帰る」
ロイは、
一瞬だけ黙り――
笑った。
「……戦国時代?」
トヨヒサ
「他にあるか?」
◆
ロイは、
宝玉を握りしめたまま言う。
「……礼は?」
トヨヒサ
「いらねぇ」
一拍。
「ただ――」
背を向ける。
「次に剣を取る時は、
ちゃんと立て」
「殿は、
何人も要らねぇ」
ロイ
「……重いな」
だが、
否定はしない。
◆
光が、
トヨヒサを包む。
輪郭が、
次第に薄れていく。
消える直前。
トヨヒサは、
振り返らずに言った。
「……名は、
置いてきた」
「だから――
もう、呼ぶな」
次の瞬間。
そこには、
誰もいなかった。
◆
ロイは、
宝玉を見下ろす。
(……トヨヒサ、か)
(いい剣だった)
宝玉の奥で、
何かが――
静かに、噛み合い始めている。
封印は、
まだ解けない。
だが――
綻びは、確かに出来た。
ロイは、
ゆっくりと立ち上がる。
「……さて」
「次は、
俺の番だな」
灰王は、
まだ全力を出せない。
だが――
剣は、確かに戻る道を見つけた。




