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新章・第二十五話 殿は、最後に斬る


夜は、

もう騒がなかった。


風も、

木々も、

息を潜めている。


赤い鎧の剣災――

ナオマサが、ゆっくりと剣を構える。


「……来い」


その声に、

もはや余裕はない。


トヨヒサは、

答えない。


剣を下げ、

一歩、前へ出る。


背中が、

重い。


だが――

嫌ではない。


(……来てるな)


(全員分だ)



ナオマサが、

踏み込む。


今までで、

最速。


空間が、

音を立てて裂ける。


――ギンッ!!


剣が、

真正面から噛み合った。


衝撃。


だが、

トヨヒサは退かない。


足が、

地面に根を張る。


「……っ!?」


ナオマサの声が、

初めて揺れた。


剣が、

押し返される。


(……増えている)


(力じゃない)


(意味だ)



ナオマサは、

力で押し切ろうとする。


赤い鎧が、

脈打つ。


剣の眷属の力が、

溢れ出す。


だが――

トヨヒサの剣は、

揺れない。


背後に、

剣が立っている。


見えない剣。


折れた弟子たちの剣。


無念の剣。


それらが、

一本の“背骨”になっている。


トヨヒサは、

低く告げた。


「……ナオマサ」


「お前の剣は、

 強ぇ」


一歩、踏み込む。


「だが――」


「一人だ」



その瞬間。


背後で、

風が鳴った。


声はない。


だが、

確かに“在る”。


弟子たちの想いが、

背中を押す。


ナオマサの剣が、

わずかに逸れた。


――その一瞬。


トヨヒサは、

迷わない。


剣を、

横に振る。


力を込めない。


技を誇らない。


ただ――

終わらせる位置で。


――ズン。


音は、

それだけ。


赤い鎧が、

真っ二つに割れた。



ナオマサは、

しばらく立っていた。


赤い鎧が、

砂のように崩れていく。


剣の眷属の気配が、

引き剥がされるように消える。


「……なるほど」


声は、

人の声に戻っていた。


「……数じゃない……」


「……想い、か……」


膝が、

地につく。


ナオマサは、

最後にトヨヒサを見た。


「……殿、だな……」


トヨヒサ

「……ああ」


「だから、

 最後だ」


次の瞬間。


ナオマサの身体は、

静かに倒れた。


剣の眷属の力は、

完全に断たれた。



森に、

音が戻る。


風が、

葉を揺らす。


トヨヒサは、

剣を下ろした。


膝は、

つかない。


だが――

深く、息を吐く。


「……終わったぞ」


その言葉に、

誰も答えない。


だが、

背中は軽くなった。


(……置いていけたな)


(ちゃんと)



トヨヒサは、

倒れた弟子たちの前に立つ。


一人ずつ、

剣を拾い――

地面に並べる。


「……悪かったな」


「だが――」


空を見上げる。


「無駄じゃなかった」


風が、

一度だけ強く吹いた。


まるで――

返事のように。



赤い鎧の残骸は、

朝日と共に消えた。


剣災は、

終わった。


だが――

この戦いで生まれたものは、

消えない。


想いを集めて立つ剣。


それが、

殿・トヨヒサの剣だった。


そして――

遠く離れた場所で。


灰王ロイは、

胸の奥に走る痛みと熱を、

確かに感じていた。


(……誰かが、

 終わらせたな)


次に剣を取る時。


ロイは、

もう一人ではない。

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