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新章・第二十三話 赤き剣は、数を嗤う

最初に感じたのは、

音ではなかった。


空気が、

重くなる。


まるで、

剣塚の谷そのものが

息を止めたかのように。


「……来るぞ」


トヨヒサが、低く告げる。


カネヅグの弟子たちは、

即座に散開した。


――判断は、正しい。


だが。


意味は、なかった。



赤い鎧が、

闇の中から歩いてくる。


足音は、ひとつ。


だが、

圧は複数。


「……ナオマサ……」


弟子の一人が、

喉を鳴らした。


(師と戦った時より……)


(……違う)


(比べものにならない)


ナオマサは、

剣を抜かない。


ただ、

立っている。


それだけで――


弟子の一人が、

膝をついた。


「……っ!?」


理由はない。

祝福も、魔術もない。


剣に触れられた感覚だけ。



「行くぞ!」


最初に踏み込んだのは、

カネヅグの長弟子。


師から最も多くを学び、

剣塚の谷でも

“次代”と呼ばれた男。


――一太刀。


完璧だった。


だが。


ナオマサは、

動かない。


剣が、

ナオマサの首に届く前に――


「……遅い」


声と同時に、

弟子の身体がずれた。


否。


斬られてから、

 倒れるまでに時間がかかっただけ。


首と胴が、

一拍遅れて分かれる。


血が、

音を立てて落ちる。


「……な……」


誰かの声が、

途中で途切れた。



二人目。


間合いを詰めず、

遠間から斬撃を飛ばす。


――正しい。


だが。


赤い鎧が、

軋んだだけ。


次の瞬間。


ナオマサの剣が、

消えた。


弟子の胸に、

赤い線。


「……師より……」


言葉を残す間もなく、

身体が崩れ落ちる。


ナオマサは、

初めて剣を振った。


それだけで、

二人が死んだ。



「……散れ!!」


残る弟子たちが、

必死に叫ぶ。


囲む。

連携する。


かつて剣鬼を殺した戦術。


だが――


ナオマサは、

その中心に立ったまま、

静かに言う。


「……知っている」


「それ」


赤い鎧が、

脈打つ。


剣の眷属の力が、

完全に流れ込む。


「もう、効かない」


一歩。


それだけで、

一人が真っ二つ。


振り向きざま、

もう一人の腕が落ちる。


叫びは、

途中で消えた。



最後に残った弟子は、

歯を食いしばり、

剣を構えた。


涙も、

恐怖も、

すでに越えている。


「……師は」


声が、震える。


「あなたに……

 こんな剣は……」


ナオマサは、

初めてその弟子を見た。


「……知っている」


そして――

一瞬だけ、剣を止めた。


「だから、

 殺す」


剣が、

振り下ろされる。


最後の弟子は、

剣ごと断たれた。



静寂。


赤い鎧に、

血は付かない。


すべて、

世界の方が裂けただけだから。


トヨヒサは、

一歩も動かなかった。


拳を、

強く握りしめる。


(……これが)


(剣の眷属の“最後の剣”)


ナオマサは、

剣を納め、

トヨヒサを見る。


「……次は」


一拍。


「あなたです」


トヨヒサは、

静かに答える。


「……ああ」


「殿は、最後だ」


赤い鎧が、

闇に溶ける。


残ったのは――

倒れた弟子たちと、

次の戦いを待つ剣だけ。


この夜。


カネヅグの剣は、

完全に折れた。


だが――

その折れ方は、

 無駄ではなかった。


トヨヒサの背に、

確かな重みとして、

残っている。

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