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新章・第二十一話 赤き鎧、最後の剣 その名は”剣〇”

剣塚の谷。


かつて剣豪たちが集い、

互いの剣を磨いた場所。


今は――

血と静寂だけが残っていた。


カネツグの亡骸は、

すでに風に冷やされている。


その前に立つ男。


ナオマサ。


剣を拭い、

何の感慨もなく鞘に収めた。


「……終わりか」


その時。


空間が、

“割れた”。


音はない。

だが、

剣だけが鳴る。


剣の眷属が、

そこにいた。


『二人が消えた』


ナオマサは、

片膝をつく。


「……はい」


『沈玄、カネツグ』


『いずれも、

 役目は果たした』


剣の眷属は、

しばし沈黙し――

続けた。


『だが、

 剣はまだ終わらぬ』



剣の眷属が、

ゆっくりと手を上げる。


否。

剣を分解するような動き。


『分け与える』


『本来、

 これは行わぬ』


『だが――』


視線が、

ナオマサを貫く。


『君は、

 最後に残った』


空間が、

赤く染まる。


血の色ではない。

戦の色だ。


ナオマサの身体に、

何かが流れ込む。


骨が軋む。

筋が張り裂ける。


だが――

悲鳴はない。


「……っ」


喉が、震えるだけ。


『二人分の剣』


『二人分の理』


『二人分の“未練”』


『すべてを、

 君に与える』



赤い鎧が、

空気から生まれた。


金属ではない。

呪いでもない。


剣の理が、

形になったもの。


胸。

肩。

腕。


一枚ずつ、

鎧が重なっていく。


最後に、

兜が閉じる。


――カン。


音は、

それだけ。


ナオマサは、

立ち上がった。


『……どうだ』


ナオマサは、

手を握る。


軽い。


否――

世界が、軽い。


一歩踏み出す。


地面が、

数拍遅れて割れた。


「……なるほど」


低く、呟く。


「これが……

 剣そのものになる感覚か」



剣の眷属が、

満足げに告げる。


『君は、

 もはや剣士ではない』


『剣災だ』


ナオマサ

「……いい響きです」


剣を抜く。


刃は、

赤く染まっている。


振らない。


ただ、

立っているだけで――


谷の岩肌が、

音もなく裂けた。


遠くの木々が、

倒れる。


風が、

悲鳴を上げる。


ナオマサは、

剣を納めた。


「……誰を斬ればいい」


剣の眷属は、

迷わず答えた。


『名を持つ剣』


『トヨヒサ』


『そして――』


一拍。


『灰王が、

 剣を取り戻す前に』


ナオマサは、

空を見上げた。


「……順番は?」


『自由だ』


『だが――』


『君なら、

 分かっているはずだ』


ナオマサの口元が、

わずかに歪む。


「……殿から、ですね」



赤い鎧が、

闇に溶ける。


ナオマサの姿は、

いつの間にか消えていた。


残ったのは――

裂けた大地と、

圧だけが残る空間。


剣塚の谷は、

もはや“聖地”ではない。


次に剣が振るわれれば、

そこは――

災厄の起点になる。

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